第5話
時計店の隣の雑貨屋は、夜でも店前に見切品のワゴンが出しっぱなしだ。シートは掛けられるが、上手に仕掛ければ問題ない。ワゴンに仕掛けたあんじゅのスマホから、りりのスマホに動画を送る。
四人は深夜営業のひまりの店の二階で『勉強合宿をする』という名目で集合した。
「どうせゲームでしょ」
そう言って笑ったひまりの母は、夜食にとサンドイッチを作ってくれた。
放課後から夕食までの時間をフルに使って微調整を済ませたスマホは、暗闇の中でもクリアな映像を送ってくれた。
「りりちゃんの髪飾りって、西商店街の土産物屋の?」
スマホをのぞき込むりりの後ろから、ひまりが尋ねる。
「そう。ママが早くみんなと馴染めるようにって」
駅向こうのマンションの住民は、買い物も駅の反対側を使うことが多い。ファッション雑誌に載っているような、お洒落な雑貨も向こうには沢山ある。敢えてこちら側で買い物をすることで、娘が受け入れられるようにとの気遣いなのだろう。
「だから今日も合宿許してくれたんだね」
「もう一筋違ってたら、もっと良かったんだろうけど」
「いやあ、東商店街のアクセは、さすがにダサすぎてムリでしょ」
ひとしきり笑いが起きた後、四人は口元を引き締め、揃ってスマホに目をやった。
「二十三時五十分。作戦開始」
「ラジャー」
作戦といってもスマホ画面を見ているだけなので、何も起きなければ退屈な時間である。
「あたし、徹夜ってまだ、したことないの」
りりが言った。
「除夜の鐘も最後まで聞いたことないの。途中で寝ちゃうから」
「ぼくは何回か経験あるよ」
あんじゅの言葉に商店街組が顔を見合わせる。都会っ子は違うねといった顔だ。
「初めて夜明けを見たときは、感動っていうより何かあっけなかった。真夜中に世界が大きく変わるわけじゃなくて、今日と明日……昨日と今日か、は普通に繋がってるんだって。当たり前のことなんだけどね」
理解したようなしないような、そんな雰囲気を醸し出しながら、後の三人は曖昧に頷く。
「お腹空いたね」
あんじゅがサンドイッチに手を伸ばした。
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