第2話
「なあなあ、商店街に夜だけ現れる謎のお化け屋敷があるってウワサ、知ってる?」
山田あんじゅのハスキーボイスに、美紀は閉じかけていた目を開けた。
「何?マンションで流れてるウワサ?」
「西通りの方?それとも俺ん家の方?」
「うん。服屋と果物屋の間とか」
「あそこ、隙間なんか無いじゃん」
「八百屋と肉屋だったかな?」
「曖昧~」
「嘘くさ~」
「でもワクワクする~」
三つの声が口々に合いの手を入れる。美紀はふと昨日の夕方からタイムトリップしてきたような感覚に囚われ、壁のカレンダーに目をやった。少し疲れているのかもしれない。
「もう少し情報集めてくる」
「商店街はこっちで聞き込みを進める」
「気を付けろよ、気取られないように」
「誰に?」
「秘密結社とか」
「ラジャー」
少年探偵団。今の子には通信機付きバッヂとか照準器付き眼鏡とか音声変換蝶ネクタイとか、そんなイメージかな。再放送の古いドラマで、靴底からアンテナを伸ばしたトランシーバーを見て笑ったのを思い出した。今時通信機など子供でも持っている。
「楽しそうな話ね。はい、どうぞ」
途端に歓声が上がる。今日はメスシリンダーではなく試験管に入った色とりどりの液体。オレンジジュース、コーラ、緑茶、ピーチネクター、コーヒー牛乳、ソーダ、りんごジュース、とどめにトマトジュースとエナジードリンク。すべて冷蔵庫にあったものだが、並べてみるとなかなかお洒落に見える。
「お好きなのをどうぞ」
と言いながら、さすがにエナジードリンクは子供には良くないと思い直し、美紀は試験管の中の黄色い液体を自分の口に運んだ。
その日を境に、彼らは理科室に来なくなった。
授業にはちゃんと出ている。挨拶も普通にする。何も変わったところはない。ただ理科室に来なくなった。
気が変わった、きっとそれだけのことだ。相手は子供なのだから。
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