第56話 愛の誓いは永遠に
「……きっとそれが、最初のきっかけ。それから私は、チャレンジすることを怖がらなくなった。自分から話しかけるようになったし、失敗して笑われても気にならないから、結果的にたくさん、大事な物ができたよ」
そう語る
「そして、
「そうかな?」
「水族館だって行かなきゃあの記念の瞬間には立ち会えなかったし、クジも株券も買わなきゃ当たらない。そういう細かい行動の積み重ねが、幸運みたいに見えただけなんじゃないかな」
確かに言われてみれば、そういう風にも感じる。僕がうなずく横で、渚沙さんがため息をついた。
「だから、もうこれからは幸運を過信しないよ。二人で最強、は変わりないと思うけど、彩人くんは私の力でちゃんと守る。……そう決めたの」
「ずいぶん頼もしいよ。でも、それは僕の仕事にさせて。格好つかないから」
僕が言うと、渚沙さんがむくれた。
「いいもーん。今は男女同権ですからね」
その顔がかわいくて、僕はまた笑う。ふとその時、頭の中に結婚式の誓いの言葉が浮かんできた。
「何、調べてるの?」
「お互いを守る、っていうのがさ。教会であげる結婚式の、誓いの言葉に似たようなのがあった気がして」
「ああ、病めるときも健やかなときも……ってやつ? 最初の方しか覚えてないや」
「僕も」
調べてみると、その全文は思ったより短かった。僕はぽつぽつとそれを読み上げる。
〝新郎 あなたはここにいる新婦を
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?〟
渚沙さんは黙ってそれを聞いていた。
「誓いますか?」
朗読が終わってから、マイクのように僕に手を向けてくる。
「誓います」
僕が言うと、渚沙さんは身を乗り出してきて、僕のスマホを取った。
〝新婦 あなたはここにいる新郎を
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?〟
渚沙さんは僕にスマホを返しながら、微笑む。
「誓います」
そして指輪をした左手の薬指を、愛おしそうに見つめた。
「……誓ったね」
「誓っちゃったね。ウエディングドレスもまだ着てないのになあ」
渚沙さんは明るい笑い声をあげた。
「
「あれ、具体的な予定がない女性が着るのはダメなんじゃないの?」
「それは迷信だよ」
「え、そうなの?」
ばつが悪くて、僕も笑った。
誰も見ていない、星空の下。僕たちは、神聖な結婚式をすっ飛ばして誓いを交わしてしまった。真面目な人が聞いたら、きっと怒るだろう。
だから、ちゃんと謝ろう。本物の結婚式の時に、きっと。
「……いや、これはちょっと自分に都合良く考えすぎか……」
「なに真面目な顔でつぶやいてるの?」
僕の体の上に、よいしょ、と渚沙さんがのってくる。
「……渚沙さんこそ、何してるの?」
「誓いの言葉は言ったけどさ。そう言えば、肝心のものがまだだったなあって」
そう言って彼女は顔を寄せてきた。柔らかいものが唇に当たる感触があって、ようやく気付く。
──そうか。誓いのキスが、まだだったな。
翌朝、僕は大変気持ちよく目覚めた。同室の
ぐっすり眠ってしまっていてお土産を買う暇もなかったが、
「……これ、全部もらっていいんですか?」
ホテルのロビーにうず高く積まれた荷物を見て、僕たちは呆然としていた。クラス全員で分けたとしても、スーツケースに入りきらないほどの量がある。
「重いでしょうから、配送希望の方はこちらで伝票をお書き下さい。後ほどお送りいたします」
「良かった。お姉ちゃんたちのお土産、間に合いそう」
渚沙さんがほっとした顔をしている。僕はその言葉を聞いて、あることを思い出し た。
「そうだ、
「お姉ちゃんがどうかしたの?」
「い、いや。ちょっとね。ホントにちょっとね」
あの株、どうなっただろうか。気になって、スマホで「マルタフーズ」を検索してみた。
「え……食品偽装?」
数年前から、高価な和牛と称して販売していたプレミアムハンバーグが、なんてことはない普通の海外牛肉しか使っていなかったことが判明。堅実経営を信じて購入してきた消費者の怒りの声が上がり、経営陣はその火消しに必死だそうだ。
「うわあ……」
渚沙さんの幸運には理由があっても、僕の不運には意味なんてないのかもしれない。僕は美波さんの顔を思い浮かべて、ため息をついた。
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「リア充め爆発しやがれ-!!」
「誓いの言葉は本来キリスト教の勉強をしてから言うものです」
「彩人にそのバチが当たったか?」
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作者はとてもそれを楽しみにしています!
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