第57話 プレゼントは相手を見てから
「どうなさいました?」
優しく話しかけてくれる執事さんに、僕は力ないため息を返した。
帰りの船でカジノをちらっと覗いたが、当然未成年はダメと言われた。それはそうですよね。
「どうしたの? 元気ないよ?」
渚沙さんに言われて、今度はことの次第を正直に話した。
「なんだ、そんなこと。お姉ちゃんだって、気にしてないと思うよ」
「でもなあ……」
「そんなに気になるなら、帰りに二人で宝くじでも買ってみる? 少しは当たるかもよ」
渚沙さんに言われて、僕は頭をかくしかなかった。
「そうしようか……損失を補填できるくらい、当たればいいけど」
気分を切り替えるために、僕たちは船内をそぞろ歩いた。途中で何やらそわそわしている中西くんとすれ違う。
「中西くん、どうしたの?」
渚沙さんが声をかけると、彼は胸の前で握り拳をもじもじとさせた。
「……すまないが、君の意見を聞いてもいいかな? プレゼントがしたくて」
「わあ、誰にあげるの? 女の子?」
僕は
「じゃあ、かわいいものがいいね! 最初は小さいグッズとかお菓子とか、軽い物の方がいいと思うけど……」
「そ、それなら大丈夫だよ。ちゃんとこの掌に入るくらいだし」
そう言って中西くんが差し出したのは……なんていうか、よくある修学旅行のお土産でよくあるやつ。謎の黒い剣に牙をむいた赤いドラゴンが絡みついている、存在が混沌としたキーホルダー。
「……こんなのどこから……」
「
なんだろう、この造形は全ての年代の男共の心をくすぐるのだろうか。少なくとも、女子受けは全くしないことは想像がつく。
「えーと……あのね……」
渚沙さんが目を丸くして、ものすごく言葉に困っている。絶対いらないけど、それをどう伝えていいのか困っている感じだ。
「迷ってるっていうことは、もう一つ候補があるんだよね? そっちも見てもらったらどう?」
僕は助け船を出してみた。片方はもう少し、見られるものかもしれないし。
「そうだな。こっちと悩んでいるんだが」
中西くんが出してきたのは、さっきと色違いのキーホルダーだ。剣が白で、ドラゴンが青というだけ。……これは違う物とは言わないんじゃないかな?
「中西くん、最初から考え直した方がいいと思う」
「なんでだよ!?」
押し問答をしていると、そこに
「明日は下船だが、体調はどうだ?」
「おかげさまで」
「元気そうで安心した。私はゲストの歓待があるので下船には立ち会えんが、また学
校でな」
「もちろん私もお手伝いします!」
「……プライベートで来ているお前がなぜ?」
「いいんです!」
早乙女さんが手を腰に当てたところで、ユカがやってきた。遠慮無くスマホのカメラを獅子王さんに向けて、ばしばし撮りまくっている。
「……ユカさん、断りもなくいいんですか?」
「もう許可はとってあるもーん」
僕は獅子王さんを見た。
「別に撮りたいなら好きにしろと言ったが」
獅子王さんらしい態度だ。ユカはそれからもしばらくシャッターを切り続ける。
「いやあ、美少女と豪華客船は絵になりますなあ。むふふ」
「私も写真に入れてよ!」
食い下がる早乙女さんを見ながら、僕はこっそりと中西くんにささやいた。
「獅子王さんとユカに許可をとって、写真を使わせてもらったら?」
「な、なんでだよ」
「早乙女さんは獅子王グッズフリークだよ。写真でグッズを作ってあげたら、きっとなによりも喜ぶと思うけどな」
「その発想はなかった!」
中西くんはそれを聞くやいなや、何やらぶつぶつとつぶやき始めた。彼をよそに、ようやく解放された渚沙さんがユカに近付いていく。
「ねえ、ユカさん。その前に、ちょっと話を聞いて。
僕たちが顔を近づけると、渚沙さんはおもむろに話を切り出した。
「……私たちのツーショット、ユカさんのSNSにあげてもらわない?」
「な、なんで?」
「だって、結局ごたごたしたあげく、『本物』の私たちは姿を現さないままでしょ? これだと、なんか喧嘩別れになったみたいに見えない?」
確かに、言われてみればそうだ。
「ユカさん、今回大変だったじゃない。それに、彩人くんの命の恩人でもあるし。一回だけ、協力したらどうかなって」
「……うーん……」
「せっかく指輪ももらったしね」
渚沙さんはとてもいい顔で笑う。困ったことに、僕はこの顔にとても弱い。
「じゃ、ユカさん一枚だけ……」
「やった! いいの!?」
ユカは文字通り飛び上がって喜んだ。いそいそと場所を選び、僕たちを人気の無いホールの隅へ連れて行く。
※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?
「中二病全開のお土産、なぜか生き残ってるよね……」
「相手の喜ぶものをあげるのは大事」
「さて、損失額はどのくらいか……」
など、思うところが少しでもあれば★やフォローで応援いただけると幸いです。
作者はとてもそれを楽しみにしています!
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