第32話 そしてテストは行われた
「よーし。これからこの前のテストを返すぞ。しっかり復習して、同じ間違いをしないように」
各教科の教師からこんな声が次々とあがり、とうとう期末テスト、全科目の結果が出た。そして夏休み前のある日、ホームルームで点数と学年順位をまとめた紙が手渡される。
「今回は三組、出来が良かったからな。先生は嬉しいぞ」
田中先生がわざわざ公言するくらい、僕たちは頑張った。リゾートが待っていると思えば、勉強にも熱が入るというものだ。
しかし浮かれるクラスの面々とは反対に、僕たちは不安を抱えていた。
「……で」
「どうだったの!?」
「三井、隠さず全部見せて」
「なんでお前ら真っ先にこっちに来るんだよ!?」
一番不安だからに決まっている。
「見て驚けよ」
「全科目赤点なし! 快挙だ!!」
確かにテスト用紙をいくらめくっても、うちの学校で赤点とされる二十五点以下が一つもない。
「ほ、ホントだ」
「まさか全教科で赤点回避するとは……」
「何かの手違いじゃ……」
「お前らは喜んでくれると思ってたのに、俺の気持ちを裏切るなよ!!」
喜ぶより先に動揺がきたので、素直に称えられなかった。涙目になった啓介を、まあまあと皆でなだめる。
「順位だって、はじめて百十番台にのったのに」
うちの学年は確か百四十人弱いるから、決して高い順位ではないのだが……それでも啓介は喜んでいた。
「順位は、私も上がったよ。
「それを言うなら私も二人にお礼を言わないと」
「で、お前は?」
「五位」
「お貴族様の首を刈り取れ」
啓介が歯をむき出しにして怒り、僕を教室の外へ連れて行く。悔しがるような順位でもないのに、何故張り合う。
「啓介も良かったんだからいいじゃない」
「あのなあ。俺は姉御に『きゃー、すごーい』って言われたかったんだよ。お前がいると、その計画が狂うじゃないか」
「姉御に負けてる時点で『すごーい』にはならないと思うよ」
「ええい、現実の申し子め。いいよな、お前は昔だったら成績が貼り出されるような男でよ」
啓介がわけのわからないスネ方をしている。持て余していると、そこに
「どうだ。リゾートには来られそうか?」
「おかげさまで、全員大丈夫みたい」
「それは良かった」
獅子王さんは嬉しそうに笑う。落ち込みから、もう立ち直ったようだ。密かに気になっていたので、僕は安堵の息を吐く。
「……獅子王さんはテスト、どうだったの?」
「どうだったと言われても……いつもどおりだが」
獅子王さんは困ったように首をかしげた。
「ほほほ、驚きなさい愚民共。牧埜さまは入学からこのかた、一位から順位を落としたことがないのよ」
かわって
「おい、本当かよ。あれだけ陸上やってて、一位なのか?」
「嘘ではない」
「なんかすげー家庭教師とかついてんのかよ」
「いや? 私は基本、授業が終わった後の勉強はしないからな」
こともなげに言われて、僕たちは凍りつく。
「それでどうやって一位を……?」
「どうやってと言われても。授業をよく聞いて、言われたことをその場で覚えればいいだけだろう。高校範囲の勉学なのだから、そう難しくはない」
一応、うちの高校は地域の進学校として有名で、授業もキツめのはずだが……おかしいな、物理法則がねじ曲がった人が一人いる。
「もういいか? 私は練習に行きたいのだが」
「ああ、うん……引き止めてごめんね……」
「どう、思い知ったかしら? 存分に打ちのめされるがいいわ!!」
獅子王さんがいなくなると、高笑いしていた早乙女さんもいなくなった。せっかくの美少女なのに、何かの妖怪のようになっていたのが実に気の毒である。
「……はあ」
「啓介、ああいうのを本物の貴族って言うんだよ」
「……悪かったよ……」
廊下に取り残された僕たちは、そろって深いため息をついた。
※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?
「全員おめでとう!」
「獅子王さんってホントに人間?」
「早乙女さん、残念美女で萌え」
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作者はとてもそれを楽しみにしています!
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