第22話 すごい水着ってどのくらいすごいんですか(錯乱)

「知ってるのか」

「中学の頃、やたら俺に張り合ってきた奴だよ。考え方が似てたから、最終的にはよき強敵ともとなったが」


 こんなのが二人居たのか。中学のクラスメイトは大変だったろうな。


「よく称されたものさ……前門の三井みつい、後門の中西なかにしと」

「どっちにしても簡単に逃げ切れそう」


 美波みなみさん、それで正解です。


「つまり、啓介けいすけと同レベルの頭と想定していいんだね?」


 僕が念を押すと、啓介は首を横に振った。


「認めたくはないが、あいつ俺より頭はいいんだ。運動神経は俺の方が上だけどな」

「……策ってのは単なるハッタリじゃないのか。だとしたら厄介だなあ」


 とりあえず一組と二組の思考を読みつつ、最も重要となる選手のオーダーを決めることになった。


「百メートル、四百メートル、八百メートルリレーは捨てよう」


 最初に僕はきっぱりと言った。短距離で獅子王さんが出てきたら、勝てるわけがない。


「捨てるって……?」

「ルールの改定で、こっちも啓介や関田さんに無限に出場してもらうわけにはいかなくなった。主力は他の競技にぶつけて、できるだけ勝ち星をもぎとってもらう」


 うちの体育祭は単純なルールで、その競技で一位になったクラスのみに勝ち星が付与され、二位以下は全く考慮されない。最終的に、勝ち星が一番多かったクラスが優勝だ。つまり、一位以外は意味がないのだ。


関田せきたさんはコントロールがいいから、玉入れは入ってほしいな」

「百メートル・四百メートルリレーは足の速い奴で固めるんだろ?」

「うーん……」


 結局うちと一組の乱戦で、どっちが勝つか分からない状態になるのは避けたい。


「十二個の競技のうち、応援合戦は来賓の審査になるからどうなるかわからない。確実に勝つには、残りの競技で半分くらいはとっておきたいけど……」

「そのうち三個は絶望的だもんな」


 十一引く三、つまり残り八個で少なくとも五勝を狙うとなると、取るべきところを狙って一点集中しかない。


「啓介、中西くんは短期決戦を望む博打打ちタイプかな?」

「……いや、あいつはそういう感じじゃないな。罠をはっといてひっかけるとか、伏線大爆発とか。知能型だって言っただろ?」

「つまり、工作できそうな競技の方が張り切りそうってことか。それなら、うちは百メートルと四百メートルをとろう」


 向こうが得意そうなのは、借り物競走・騎馬戦・パン食い競争あたりか。逆に玉入れ・綱引き・大縄飛びといった、単純に身体機能が問われそうな競技が苦手だとしたら、うちはそちらに注力した方がいい。


「百メートル、四百メートル、玉入れ、綱引き、大縄飛び。うちがこの五つをとって、一組と二組で勝ち星を分け合ってくれればまず負けないけど……」

「問題は、二組が滅茶苦茶強かった場合だね」


 そばでモスモスとご飯を食んでいた美波さんが言った。


「そうなんですよ。一組はどれだけ勝っても、二組が三勝してくれればうちの五勝には届かない。でも、二組が全取りしてしまったら、うちは五勝しても優勝が危うい状態になります」

「難しいよねー。一組に勝たせすぎてもいけないけど、二組の邪魔はさせなきゃいけないってわけか。内部操作できる人材がいないと厳しいかも。なんかうまくたきつけられそうな人材いないの?」


 僕は黙って、隣の啓介を指さした。


「バカと鋏は使いよう……」

「なるほど」

「失礼だなお前!?」


 啓介がいきり立つが、僕は無視した。


「三井くんがキーパーソンってことだね。頑張って!」

「え、そう? じゃ、頑張ろうかなあ……」


 渚沙なぎささんがうまいことまとめてくれるに決まっているからだ。後で関田さんにもフォローを頼んでおこう。


「それにしても、うまくいったら南国のリゾートか。最近の学生はゼータクじゃのう」


 美波さんがため息をついた。


「渚沙が水着買ってたのはそういうわけか」

「だっ、だって、もし勝てなくても、普通のプールや海で使えるし」


 渚沙さんが頬をふくらませる。それを見ながら、美波さんが低い声でこうささやいてきた。


「ビキニのかわいいやつだったから。婿殿、良かったな」

「うええ!?」

「渚沙は着やせするけど、脱げばけっこうすごいから」

「お、お姉ちゃん!?」

「ホントのことだもん」


 けっこうすごい……どのくらいかな……Eカップくらいとか、いやもっとか? 渚沙さんがくっついてくると、胸バッシバシ当たってたしな。それが水着で見えちゃって、水着ということは足も出てるわけだし、ああどうしよう。


「で、でもせっかく買ったし、できたらリゾートで着たいよね!! 体育祭、頑張ろう!!」


 僕が悶々としているのを感じ取ったのか、渚沙さんが強引に話題を変えてきた。


「わ、三井くん、鼻血!!」


 僕より興奮してたのが横にいた。こいつも妄想していたのかと思うとちょっと腹が立つ。


「啓介。当然、リゾートでは関田さんも水着になるぞ」


 啓介はさっきより激しく赤面し始めた。よしよし、上書き完了。僕が密かに拳を握るのを、美波さんが生暖かい目で見ていた。


「……ふぉにかく、だな」


 しばらくたって、鼻にティッシュをつっこんだ啓介が口を開く。


「勝つために全力を尽くそう」

「それについては異論ないよ」

「よし、メンバー決めだ。五種目に向いたおすすめ人選を、俺がたっぷり教えてやろう」


 それから小一時間、ああでもないこうでもないと議論が進む。クラスのグループメッセージから意見を募って、夜の九時前にはようやく案が固まってきた。


「む、こんな時間か」


 啓介が鼻からティッシュを引き抜きながら言う。おいとまするにはちょうどいい頃合いになっていた。


「じゃ、僕たち帰るね」

「その前にトイレだけ貸してくんね?」

「……案内する」


 美波さんが啓介を案内して、リビングから消える。すると、渚沙さんがつつっと僕に近寄ってきた。


「なに?」

「……あのね」


 手招きされたので、僕はかがみ込む。


「水着、もう一着あるから」

「え?」

「お姉ちゃんには見せてないけど、ちょっとキワドイやつ」

「えええ!?」

「そっちは特別で、リゾート用にしようと思ってたんだ。だから、頑張ってね」


 今度は僕が鼻血を吹くんじゃないかと思った。きわどいって、どのくらいですか。谷間が見えるとか? それとももっと? 水着だけでも今見せてもらえたりしませんか。頭の中で、雑多な思考が渦を巻く。


 それを切り裂いたのは、部屋の奥から聞こえてきた落下音だった。なにか金属製のものが落ちてきたらしく、けたたましい音がする。


「え?」

「何かあったのか!?」


 僕は無理矢理ピンクの思考を追い払い、音のした方に向かった。すると、廊下の先に大きな黒い鉄板が落ちていて、その下で啓介がのびている。


「大丈夫!?」


 あわてて渚沙さんと二人で抱き起こしたが、ひどい怪我はないようだ。ひとまずほっとする。


「ふーむ、こういう仕掛けか」


 美波さんは直撃を免れたらしく、ひとり静かにうなずいていた。


「仕掛けって……」

「お父さんのトラップ。便座をあげるとピアノ線が作動して、壁に擬態した鉄板が落ちてくる仕組みになってたみたい」


 僕は血の気が引いてきた。前に聞いていたはずなのに、警戒を怠っていた自分が愚かだった。というかお父さん、本当にただの会社勤務なのだろうか。日本に入国させちゃダメな人では。


「ただいまー……って、何それ!? どうしたの!?」


 そこにちょうど夏帆かほさんが帰ってきて、場はいっそう混乱した。僕はなんとか意識を取り戻した啓介に肩を貸して帰り、奴の家まで寄っていくまで、ずっと冷や汗をかいていた。





※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?

「中学時代の啓介ってどんなの?」

「お父さんは外人部隊にでもいたんですか?」

「えっちい水着を見せろ」

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作者はとてもそれを楽しみにしています!

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