第5話:私を愛した怪盗 (The Thief Who Loved Me)・冬の女04

「何故こんなところに一人で暮らしているのです?」

「――よくわかったな。ふふ、まぁそれに答えるのは容易いことだが、とりあえず私の家に来ないかい?こんなところで立ち話をしていても始まらんのでね」


 リディアは彼の言葉を聞いてあまり間を空けず首を縦に振った。こんな場所でずっと立ち話をするのは目の前の紳士然とした男には似合わないと思ったのも理由の1つだったかも知れない。もちろん、彼女はまだこの白に覆われた場所がどういうところか見当もつかなかったが、出会って間もない彼をまくし立てていると気づいたので、彼女はその提案に乗ることにしたのだった。


 彼女の賢明な判断に満足したエンフィールドは小さく笑い声を上げて先に歩き出しだ。肝心な話はお預けになったのでリディアは元々彼女が持ち合わせている少女らしき好奇心が湧いてきた。エンフィールドが二足歩行をするのか確かめたくて、何も見逃さんというばかりに目をあっちこっち動かして漂う煙り群を追いながら、彼をついて行くのだった。


「この『隠し区域イプシロン』の住人が私一人のみということを見抜いた君には称賛の言葉を贈ろう。君が監察枢機卿を監察するために送られてきた元老院の回し者ではないならね。ふふふ」


 家に着いてエンフィールドから最初に出た言葉はそういう皮肉だった。暖炉に薪を焚べながら低く笑う彼に対して、リディアはかどう答えればいいかわからず、数秒間迷ったが、それが彼なりのからかいであったことに気づき、むっとなって相手を睨んだ。もっとも、どこを睨めば睨んだことになるのか難儀なものであったが、それでも彼女はとにかく眉間にしわを寄せて不機嫌であることを表した。


「いや、気を悪くしたなら謝るよ。別にバカにしているつもりはないさ。……そうだな、さっきの君の質問に答えよう」

「はい」


 リディアは姿勢を正してあえて短く答えた。早く答えてくれという無言の圧力を込めて。この頃には彼女も思い当たる節があったので、その最悪の予想が外れてくれればどんなに良いものなのだろうかと、隠し区域イプシロンに詳しいエンフィールドが直に否定してくれればどんなに良いものなのだろうかと、暗に彼を急かしていた。


「うら若き君に告げるのは非常に心痛いものだがね。私がこの隠し区域イプシロンのたった一人の住人である理由……それは出られないからだよ。はっはは」


 あっけなくリディアの最悪の予想が当たってしまい、彼女の儚き希望は砕け散った。




――つづく――

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