第5話:私を愛した怪盗 (The Thief Who Loved Me)・冬の女05
「出られない!?そんなことはないでしょう。時空系の能力で移動するなり、とにかく、ニルヴァーナ能力でなら……」
「違う。『隠し区域イプシロン』は名前こそ立派だが、実態はこの機械仕掛けの街ドレッドノートの各種機関の熱暴走を防ぐために作られた巨大な冷却炉である。ドレッドノートに属する一区画ではあるが、地理的には隔離されている。いわば、無人島みたいなものだ。そして、外の世界との温度差によって常に霜がついている状態にある。問題は『隠し区域イプシロン』という冷却システムは周囲のニルヴァーナ粒子を大量に吸引して得たエネルギーで回っている点だよ。たとえ、冷却炉そのものの中にいなくても、限りなく近くにいる私達はいくら能力を発動しようとしても、ニルヴァーナ粒子が全部吸い込まれて能力が発動しないのだ」
「では、圧倒的な力で壊すなり……」
「それも無理だな。君たちを襲い、ドレッドノート記念公園近くの一区画を廃墟に変えたグスターボ・クァンの異常な怪力ならこの壁に穴を開けることも出来るやも知れぬが、今の私や君にはとても出来やしない。なにせ、この冷却炉は爆弾テロを想定して設計されたため、とにかく分厚い」
何を聞いても不可能だと言われたリディアは他にも色々質問したいことがあったが、なんとなく断念した。自分が置かれた状況の深刻さを自覚出来たと言うべきかも知れない。リディア自身より先にこの隠し区域イプシロンに迷い込んだエンフィールドだって脱出するためにあらゆる手を尽くしたはず。いま遭難したばかりの自分の浅はかな脱出計画など、エンフィールドが先に思いついて既に試している。その試みの数々は次から次へと撃沈、もはや打つ手無しと受け入れるしかなくなったので、彼はここに家を建てて住み着いてるに違いない……。リディアはそう思った。
「――わかりました。では、一旦落ち着いてここでの生活に慣れることを優先したいと思います」
「ほう。意外と諦めが早いな?リディアくん」
「いいえ、諦めたわけではないです。絶対ここから脱出するつもりです。しかし、今じゃない……それだけです」
「賢明な判断だ。私は君の今後の方針を支持しよう。教えてもいない自分の名前がたった今呼ばれたことに気づきすら出来ない現状の君では素晴らしい脱出方法など閃くわけもなかろうからな」
「なっ!?」
こうやって、リディアの遭難生活は始まってしまったのだ。
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