第42話 何叫んでるんですか!
「えっと、レイカさんは……あそこかな?」
カフェに入り、明るい金髪の髪をした小さな女性を見つけた私は、慌ててその側に駆け寄った。
そして、
「すみません、レイカさん。 遅くなっちゃいました」
と軽く会釈しながら、席についた。
「いや、気にするな。 こっちこそ、急に呼び出して悪かったな」
そう言って、湯気のたったコーヒーをちびちびと啜るレイカさん。
「いえ、気にしないでください。 どうせ暇でしたから。 予定が出来てむしろラッキーです」
「そうか、それなら良かった。 それで、例の件はどうなってる?」
「前途多難……ってとこですね」
私は、鞄の中から数枚の紙を取り出し、机の上に広げた。
「どれどれ……」
肩肘を机につきながら、「マツザカの四天王討伐不参加に関する報告書」と書かれた紙に目を通すレイカさん。
……レイカさんが、紙を見ている間に私も何か頼もうかな?
そう思い、店員を呼び止めようと辺りを見回していたところ、
「はぁ、やっぱり何も分からずじまいかぁ」
レイカさんが、手に持っていた報告書を机に投げつけ、体を伸ばし始めた。
「えっ、もう読み終わったんですか?」
「あぁ、これくらいの量なら直ぐに読み終わる」
「そうなんですか? す、凄いです……」
いつもマツザカに振り回されるせいで、勘違いしちゃってたけどレイカさんって、意外と優秀な人なんだな。
ちょっと意外かも……。
てっきり仕事の出来ないおバカさんかと……。
「おい、何だその目は! もしかして、失礼なこと考えてるんじゃないだろうな?」
「い、いえいえ、そんなことありませんよ! レイカさんって仕事の出来る人だなぁって関心してただけです」
「……本当か?」
「い、いやなぁ、本当に決まってるじゃないですか。 こんなところで嘘ついてどうするんですか!」
「それもそうだな……」
そう言って、再び紙を手に取るレイカさん。
危ないところだった……。
これからは余計な詮索を入れられないよう注意しよ……。
そんなことをボーっと考えていると、
「おい、ヒカリ!!」
レイカさんが顔を近づけながら、大声で私の名前を叫んだ。
「ひゃっ、何ですか?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあるんだが……、そんなに驚いてどうしたんだ?」
「え? あ、いや……、あはは……、何でも無いです」
「……変なヤツだな。 ま、今に始まったことじゃないか。 それより、ここ、マツザカが休暇をとってないって本当か?」
「はい……、休むどころか、以前にもまして働いていまして……」
「……つまり、ギルドに提出した休暇を取りますという報告は虚偽のものだったと」
「そういうことになりますね」
「はぁ……、分からんな……」
腕を組みながら、椅子にもたれかかるレイカさん。
「あいつの奇行は今に始まったことじゃないが、今回ばかりは本当に謎だ。 いつものあいつなら、「四天王?! 是非とも殴られたい」とかいって飛び込んで行きそうなんだがな……」
「ですね……、マツザカさん、どうしちゃたんでしょうか?」
「……はぁ、全くだな」
大きなため息をつき、窓の外を眺めるレイカさん。
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
……気まずい。
何か喋らないと……。
「あ、あのレイカさん……」
「んっ? 何だ?」
私に返事をしながら、コーヒーを啜るレイカさん。
「実はレイカさんっとマツザカさんって仲良しなんですか?」
「ぶーーーーっ!? げほっ、ごほっ、うぇっ……」
私の声を聞いた瞬間、コーヒーを吹出し、むせ始めるレイカさん。
「うわっ! な、なに!? 急にどうしちゃたんですか!?」
「ごほっ、ごほっ……。 そ、それはこっちのセリフだ!! いきなり何だその質問は!! どこをどう見れば私とあいつが仲良しに見えるんだ!! あんな奴、大っ嫌いだ!!」
「いや、だって……、嫌いって言う割には面倒見が良いですし、結構マツザカさんの事も気にかけてるなって……」
―ヒュン
突如、鋭利な何かが私の言葉を遮るように、私の横をかすめた。
「ひゃっ……?! な、なに……」
視線を横に向けると一本のフォークが壁に突き刺さっていた。
「ヒ~カ~リ、もう一度同じことを言ってみろ? 次はお前の目に当てるからな?」
両手の指と指の間にフォークを挟みながら、顔を真っ赤にして、私に詰め寄るレイカさん。
そんなレイカさんに私は、
「は、はい……、すみません。 変なこと言って……」
と力なく返答した。
「分かれば良いんだよ。 分かれば。 私があいつの面倒を見てるのは、仕事だからだ。それ以上でもそれ以下でもない!」
「な、なるほど、でも、仕事とはいえ、マツザカさんを見捨てないの偉いですね」
「偉い? 私が??」
「はい、レイカさんは立派ですよ。 普通の人なら投げ出しちゃうような仕事をきっちりこなしてますから」
「そ、そうか……。ま、まぁあいつみたいな超問題児を扱えるのは、ギルドの中でも特に優秀な私くらいだからな」
満更でもない様子で見事などや顔を披露するレイカさん。
「そうですね。 マツザカさんみたいな人を世話するには、レイカさんみたいに優秀で、思い入れのある人じゃないと無理です」
「思い……入れ?」
ポカンとした顔を浮かべるレイカさん。
「え、あっ、はい。 仲良しとまでは行かなくても、良い意味でも悪い意味でも、思い入れはあるのかなと……」
「思い……入れ、あいつを……。 悪い意味で……」
なぜか、顔が赤くなっていくレイカさん。
すると、突然
「ああああああああああああ、忘れろ! 忘れろ! 忘れろ!!」
窓にガンガンと壁を打ち付け始めた。
「ちょ、い、いきなり何やってるんですか!? 血が! 頭から血が出てます!!」
暴走するレイカさんを慌てて拘束する私。
すると、レイカさんは項垂れながら、
「こ、殺せ……。 殺してくれぇぇぇぇ」
と叫び始めた。
「な、何叫んでるんですか!! ま、まるで私が何かしてるみたいじゃないですか!!」
辺りを見渡すと、カフェにいた全員の視線が私に向いていた。
しかも、所々から、
「自警団」
という聞きたくも無い単語が飛び出している。
「あ、あの、皆さん、これはちがっ……」
「お、お客様……」
「ひゃい!!」
弁明をしようと、あたふたしていると、店員らしき人物が話しかけてきた。
「あの……、他の方のご迷惑になりますので……」
「そ、そうですよね……、あはは……」
苦笑いを返しながら、少しずつ店員と距離を取る私。
そして、カウンターに近づいたところで、
「し、失礼しましたーー」
トレイにお金を投げ、レイカさんを片腕に抱きながら、全力で店を後にした。
背後から、
「あの子……、もしかして未成年誘拐を……」
と飛んでもない誤解をしている人の声が聞こえてくる。
その声に私は、
「誤解です~~~~、違うです~~」
大声で返事を返しながら、
「い、いやーーーー」
と更に誤解を深めそうな叫び声をあげているレイカさんを片手に、その場から全力で逃走するのだった。
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今日から再開しますと言った直後に風邪で寝込んでしまいました……。
大変申し訳ございません。
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