第40話 そ、そばですか?
「うおおおおおおおおおお! 待てゴラぁぁぁぁぁぁぁぁ」
顔を真っ赤にしながら、鬼気迫る勢いで追いかけてくるツバキさん。
「ひ、ひぇっ」
その姿に圧倒され、ユキさんが乗っている黒服に隠れながら、全力疾走する私と、
「ひ、ヒカリさん、走りにくいわ! ちょっと離れて!!」
そんな私に困惑するユキさん。
「だ、だって怖いんですもん……、あれ、もう人間の心なくしちゃってますよ?」
「まぁ、その気持ちは理解出来るけど……、いくら何でも怯えすぎよ。 少しリラックスしたら? 木の上を見てみなさい」
そう言って、指で木の上を指さすユキさん。
そこには、
「ははは、へぶっ、ははははは」
目の前にある木の枝全てにぶつかりながら、悠々と木の上を渡り歩いるマツザカがいた。
その顔面は血だらけで、周りにいる鳥たちすらドン引きしている。
「あれはあれで、おかしいですよ……。 もう気を抜くとかそういうレベルじゃないです……」
「あはは、まぁ、確かにあれは極端な例ね。 でも、安心なさい、あなたの心配ごとは、もうすぐ無くなるわ」
「え? それって……、どういう……?」
「策があるわ」
そう言って、何時になく真剣な表情を見せるユキさん。
「ほ、ホントですか!! 流石ユキさんです!! いつもは問題児ですが、こう言う時だけは意外と頼りになりますよね!! ありがとうございます!」
私は嬉しさのあまり、ユキさんの手を取って喜んだ。
「……ヒカリさん、後で覚えておきなさいよ。 でも、喜んで貰えてなによりだわ。 早速、地点Aへ急ぎましょう!!」
「地点えー……ですか? 良くわからないですけど、どんな作戦なんです?」
「ふふ、周りのもの全てを巻き込む、側杖作戦よ!」
「そ、そばですか? 風情を感じる名前?
ですね??」
「……? ああ、そう言うこことね。 そうよ、きっと素晴らしい風情が見られると思うわ」
「……?」
「??」
あれ?
なんだろう、この空気。
「ま、まぁ良いです!「 期待してますよ! ユキさん!!」
「えぇ、任せて頂戴! さぁ、走るわよ!!」
「はい!!」
ユキさんの言葉を受けて、元気を取り戻した私は、大声で返事をした。
しかしこの後私は、ここでユキさんを止めておくべきだったと深く後悔することになるのだった。
―10分後
「……この辺かしら。 お疲れさま、ヒカリさん。 地点Aに到着よ!」
「つ、着いたんですか? つ、疲れたー」
「ふふ、頑張ったわね。 ヒカリさん」
その場にへたり込む私の頭を、後ろから優しく撫でてくれるユキさん。
「え、えへへ……、もう、どうしたんですかぁ、ユキさん。 まぁ、悪い気はしませんけど……」
「ふふ、遠慮しなくても良いのよ。 ヒカリさんはいつも本当に頑張っているわ。 良い子、良い子」
「も、もう……、本当にどうしたんですか?」
いつものとは違うユキさんの様子に戸惑っていると、突如、
ガチッ
「へ……?」
謎の金属音と共に、ベルトのようなものが、私の腰に取り付けられた。
「……ゆ、ユキさん?? 一体何を……?」
顔を真っ青にしながら、ゆっくりと振り向くと、そこには……、
「ヒカリさん、ファイトですわ!」
そう言って、ニヤつきながら、「標的 →」というプラカードを持っているユキさんの姿と、私の背中の上で気絶しているボブの顔があった。
しかも、その後ろから、
ドタドタドタ……
黒い塊が凄まじい早さでこちらに向かってきている。
「え、ちょ……やっ!!」
腰に巻かれたベルトをはずそうと、必死にもがいて見たが、無理そうだった。
ということは……。
「……あ、あはは……、そう言うこと……ですか」
全てを察し、俯く私。
そして、数秒後、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」
叫び声を上げながら、ユキさんがプラカードで示している方向に向け、全力疾走をした。
「ひ、ヒカリさん! なんて楽しそうなことを!! 俺も混ぜてくれ!!」
魔物から追われる私を見て、木の上から降りてきたマツザカ。
そして、私の横に付き、併走を始めようとしたのだが、
「あなたは、あちらですわ」
背後から忍び寄ったユキさんに背中を思い切り蹴飛ばされ、「ボキッ」という音共に、後方に飛ばされていった。
「あひ~~」
気持ち悪い声をだしながら、魔物の群れへと近づいていくマツザカ。
そんなマツザカを見て、私は、
「マツザカさ~ん、直ぐ帰ってきて下さいねー」
とだけ叫び、足を進めた。
「あぶ、へぶ、ごぶ、ァヒヒヒヒ、目覚める! 悟りに目覚めちゃうぅぅうううう」
後方で、わけの分からないことを叫ぶマツザカ。
本来なら、突っ込む所なのだが、今はそれどころじゃなかった。
なぜなら、今、私の目の前には……
「つ、ツバキさん、どいて~~~~」
鬼の形相で私に向かって来ているツバキさんがいるのだから。
「うわ、なんだこれぇぇぇぇ、こっちに来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「そ、そんなこと言っても、むりですよ~~~~! 助けて下さい!!」
「む、無理に決まってるだろ、クソッ、ここは逃げるしか……」
「あら、そう簡単に逃がすと思って?」
知らぬ間にツバキさんの背後に回り込んでいたユキさん。
「なっ、ユキっ、うわぁぁあああ、なんこれぇぇぇぇ」
そして、手際よくツバキさんの体に縄を巻き、
「あなたなら、こんな拘束すぐに抜けられるでしょうから、頑張りなさい」
そう言って、ツバキさんを無慈悲にも、後方へ蹴飛ばした。
「うおおおおおおおおおお、貴様ら、いつか地獄送りに……、ぎゃああああああああああああ」
本当に人間かどうかが疑わしいほどの絶叫をあげ、魔物達に飲まれていくツバキさん。
その姿を見て、私はユキさんにグッと親指を立てた。
すると、ユキさんはなぜか
「ヒカリさん! 前! 前!」
と指を差し始めた。
「……ま、え?」
ユキさんの言っていることが分からず、走りながら頭を抱える私。
すると次の瞬間、
ガンッ
「へぶっ」
凄まじい衝撃と共に、私の頭に衝撃が走った。
「い、一体何が……」
状況を把握出来ず、困惑していると、後方から、
「……木にぶつかって気絶とか、何やってるんすか?」
と聞き覚えのある語尾の人物が血まみれで近づいてきた。
「つ、ばきさん……?」
「……はぁ、まぁ、あなたは特に悪さをしたわけではないですし、お説教だけで済ませてあげます」
誰かに抱きかかえる私。
遠のく意識の中、私は、
「……はい」
とだけ返事をして、目を瞑った。
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