第39話 汚なぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!
「はぁ……、はぁ……、ちょ、ちょっと待って下さいよ!!」
あれから、必死に走り続けた私だったが、数十分経ったあたりで、限界を迎え、その場にへたり込んでしまった。」
「ヒカリさん? 何をなさっているの? もしかして、舐めプというヤツかしら?」
「なるほど、ここでツバキちゃんとの距離を詰めて、捕まるかどうかのスレスレの感覚を楽しもうという魂胆だね。 素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
「あら、ヒカリさんもそっちの趣味に目覚めたのね。 これは喜ばしいことだわ」
なぜか私に熱い視線を送ってくる二人。
「なっ、ち、違います!! 勝手に二人で盛り上がらないで下さい!!」
「あら、そうなの? じゃあ、一体何をなさっているの?」
「何って……、普通に休んでるだけですよ。 そういう二人はどうして平気なんですか?」
「おほほほほほ、人を痛めつけるためには、鍛錬が必要ですから。 いつの間にか体力は付いていましたわ~」
「もちろん、いたぶられるにも体力は必要だよ。 ハッハッハッ」
「……聞いた私がバカでした。 私はここで大人しくしているので、お二人は先に行って下さい」
「そういう訳にもいかないさ。 ヒカリさんは大切な仲間だからね。 見捨てはしないよ」
「見捨てるって……、大げさですよ。 それに最悪、話し合えばわかり合えると思います」
「……ははは。 どう思いますか? ユキ嬢??」
「……まぁ、そうね」
私から視線を逸らす二人。
「えっ? どういうリアクションですか?! それ!!」
「……そうだ! あなたも間近で見たら理解出来るんじゃないかしら??」
「間近で? ですか? まぁ、それなら分かりやすいですけど……」
「良かった! それなら決まりね!! おい、犬。 例のものを」
「ワン」という返事と共に、何かを持ってくる黒服達。
ユキさんが重装備でもして、説得しに行くのかな?
そんなことを考えていると、ユキさんの口から衝撃の言葉が飛び出してきた。
「さて、レイカさん。 後はお願いね」
「う~い」
は?
今なんて?
私の聞き間違いかな?
そう思い、ゆっくりと顔を上げると、顔を真っ赤にしたレイカさんが、目の前で、ちょこんと座っていた。
「え、ちょ、レイカさん?! なんでここに? っていうか、まさか、説得に行かせる気ですか?!」
「そうだけど、何か問題でもあるかしら?」
「問題しかないですよ! 酔っ払いの説得とか、誰が聞くんですか! 反感を買う未来しか見えないです!」
「……確かに、普通の酔っ払いなら、そうなるでしょうね。 けど、レイカさんはこれでもギルドの職員よ。 ある程度、話は聞いてくれるんじゃなくて?」
「……言われてみれば」
もしかしたら、適任なのかもしれない。
酔っ払いだけど……。
「ふふ、決まりね! それじゃあ、私達はあそこで行く末を観察するとしましょう」
そう言って、ユキさんは横の茂みを指さした。
「ユキ嬢、俺は……」
「あなたは、あの木の上で懸垂でもしてなさい」
「了解!」
元気な返事と共に、凄まじい勢いで木に登り、懸垂を始めるマツザカ。
「……はぁ、それじゃあ、ユキさん。 私はこれで……」
そんなマツザカを無視して、私は颯爽と茂みの中に隠れた。
そして、10分後、
「はぁ……、はぁ……、処す、処す、処す、えぐる」
全身から殺気を漂わせながら、ツバキさんがゆっくりと歩いてきた。
しかも、ボソボソとヤバい言葉を呟きまくっている。
「ほ、ホントに大丈夫なんですか……、これ……」
「さぁ? そんなの知らないわ。 まぁ、黙って見てなさい」
「は、はぁ……」
レイカさんに迫っているツバキさんを観察しながら、小声で話す私達と、その上で
「ふっ……、ふっ……、ふっ……」
枝に捕まりながら懸垂に励むマツザカ。
そして、遂に……、
「あ、ツバキだ! やっほー」
「……レイカちゃん、何やってるんすか、こんな所で」
ツバキさんとレイカさんがエンカウントしてしまった。
しばらく見つめ合う二人。
すると、突然、
「さすがに飲み過ぎやーー! どれくらい飲んだんじゃワレーー!!」
ツバキさんは、激昂し、レイカさんを激しく揺すり始めた。
「おっ、や、やめっ、おぷ、おぇぇええええ」
揺れに耐えきれず、口から色々出ちゃったレイカさんと、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、汚なぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
全身にかかっちゃったツバキさん。
そんなカオス過ぎる事件現場を見て、ユキさんは、
「あははははははは」
大声で高笑いを浮かべた。
「そ、その声は、ユキ嬢ぉぉぉぉ! ということは、またお前達のせいかああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひえっ……」
血管がちぎれるんじゃないかと思うくらい、激昂するツバキさん。
その気迫に圧倒され、怯えると同時に、こんな人と話し合いをしようとしてたのかと、後悔する私。
その反対にユキさんは、笑顔で、
「ええ、そうよ。 ささ、逃げるわよ。 ヒカリさん」
と言い、私の手を引っ張り走り始めた。
「え、ちょっと!? だから、痛い、痛いですってば!!」
いつものように、強引にユキさんに連れて行かれる私と、
「お、もう行くのかい? はは、待て、待てぇ」
猿のように木と木の間をジャンプしながら移動するマツザカ。
そんな私の後ろでツバキさんは、
「ま、待てこらぁぁぁぁああああ! それと、いい加減離れろ! レイカぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわ、吐くなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と叫んでいた。
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