第37話 そのキャラの温度差はなんなんですかぁぁああ

「アン、アン、アンッ」


全身血まみれで階段を転げ落ちてくる上半身裸のマツザカ。


「へ……? な、なんでここに……」


「ヒカリさん! ヒカリさんじゃないか?! 元気だったかい?」


「は、はぁ……、元気ですけど……」


「ははは、それは良かったでは!」


「あ、ちょっと!!」


「な、こいつ一体何を……?!  うわー!」


私と話している途中で、階段から落下し終えたマツザカは、勢いそのままに、凄まじい回転をしながら、目の前で待機していた自警団の人達をはね除け、出口の方へと消えていった


「な、何だったの……?」


静寂が広がる階段の脇で、一人たたずむ私。

すると突然、


「どこに隠れやがった、ギルドに恥をかかせることしか能が無いゴミクズ共が!!」


上のフロアから、誰かが叫ぶ声と共に、大量の足音が聞こえてきた。


「さ、さっきから何が……」


ビクビクと怯えながら、音がする方向を向くと、そこには……、


「どこじゃ、マツザカー!」


顔を真っ赤にしながら激昂している見覚えのある人物と、自警団の人達がいた。

そしてその人物は、階段の横で佇んでいる私を見つけると、怒濤の勢いで私に近づき、


「あはー、マツザカさんのお仲間発見っす! 元気でしたか? ヒカリさん」


顔をこわばらせながら、私の右方に手を置いた。


「げ、元気ですけど……。 つ、ツバキさん?! なんか、キャラ変わってませんか……?!」


「あはぁ、ヒカリさんは面白いっすねぇ。 ウチはいつもこんな感じですよぉ。 それよりヒカリさん、一つお願いがあるんですけど、聞いてもらって良いですか?」


ふらふらと揺れながら、歪んだ笑顔で語りかけてくるツバキさん。


「はい? 別にいいですけど……、なんでしょう?」


そんなツバキさんに不信感を覚えながらも、私は直ぐに返事を返した。


「良かったぁ、それじゃ、ここで宙づりになってもらえませんか?」


「は?」


……?

私の聞き間違い?

でも、実際、ツバキさんは私の体に縄を巻き始めているし……。

……え?

本気なの?


「ちょ、ちょっと! 止めて下さい!! 意味分かんないですよ!!」


そう言って、私は必死にもがき、結ばれかけていた縄をほどいた。

すると、ツバキさんは、


「ちっ」


大きな舌打ちをした後、


「黙って、マツザカ達をおびき寄せるための生け贄になれやぁぁぁぁぁぁぁぁ」


と耳が裂けるくらい大きな声で、私を恫喝した。


「ひっ……」


その勢いに圧倒され、へたり込んでしまう私。

そんな私を見たツバキさんは、


「そうそう、大人行くしてれば痛くしないっすから、そのままで居て下さいよ」


再び、作った笑顔を浮かべながら、私の体に縄を回し始めた。


「だ、だから、そのキャラの温度差はなんなんですかぁぁああ!」


私はそう叫び、ギュッと目を瞑った。

すると次の瞬間、


「えぇ、全くね。ギルドの仕事はどこかが壊れている人じゃないと務まらないのかしら?」 


「な、なんだ貴様、へぶっ!」


「や、マツザカ四天王ユキ嬢! この、ガハッ」


そんな声と共に私の体から、縄が離れた。

この独特の口調、まさか……。

ゆっくりと目を開けると、そこには、


「おほほほほほ」


私の目の前で、黒服にまたがりながら、いつもの高笑いをしているユキさんと、


「く、くぎゅー……」


階段の下で、完全に伸びているツバキさん、そして、なぜか巻き込まれている自警団の人達がいた。


「ゆ、ユキさん?!」


「ふふ、大丈夫だったかしら? ヒカリさん?」


「は、はい……。 って、ツバキさん達は大丈夫なんですか?! 死んでませんか? これ?!」


「大丈夫よ。 自警団の奴らは、日頃から体を鍛えているだろうし、ツバキはギルドの中でも武闘派として有名だもの。 この程度で死にはしないわ」


「は、はぁ……。 そうなんですね……。 でも、良かったです。 これで落ち着いて話が出来ます。 一体何が起きてるんですか? マツザカさんも、ツバキさんも、会議中じゃなかったんですか?」


「ああ、それは……」


「ま、まてー!!」


ユキさんが口を開こうとしたタイミングで、別の自警団グループがこちらに向かって来た。


「ふふ、思ったより早かったわね。 ヒカリさん、走るわよ!」


「まっ、待ってください! まだ、説明が……」


「説明なら、走りながらで十分よ。 さ、早く!!」


「ちょ、ちょっと!! いたっ、痛いです!!」


強引に私の腕を引っ張るユキさん。

そんなユキさんに連れられ、私は意味も分からないまま、全力で自警団の人達から逃走するのだった。

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