第36話 やっぱり頭が……

「あぐぅ……、あ、頭が割れそうなくらい痛いです……」


「……ヒカリさん、本当に大丈夫なの?」


心配そうに、ベンチに腰掛ける私を見つめるユキさん。

そんなユキさんに私は、頭を押さえながら、


「は、はい……、まだ頭がズキズキしますけど、何とか歩けそうです」


と笑顔で答えた。


「……そう。全く、床に頭を打ち付けて死にかけるだなんて、前代未聞よ。 これからは気を付けなさいな」


「……気を付けます」


ユキさんの言葉に、ぼそりと返事をする私。

今振り返ると自分でも馬鹿らしいと思うが、羞恥心の余り、凄まじい勢いで床にガンガンと頭を打ち付け続けた私は、軽い脳震盪状態になり、ユキさんに応急処置をしてもらうことになった。

幸い、一命は取り留めたものの、今だ頭は痛み続けていた。


「……過ぎたことはもう良いわ。 それよりヒカリさん、立てる?」


「あ、はい……、ってきゃあ!」


「ヒカリさん? 危ない!?」


足下がふらつき、ユキさんに抱きかかえられる私。


「……この調子じゃ、荷物持ちは無理そうね」


「……すみません」


「別に謝ることじゃないわ。 私のわんちゃんに持たせればいいもの。 犬!!」


パンパンと手を叩くユキさん。

すると、どこからともなく、


「ワン! ワン!」


と黒服達が現れ、ユキさんの買った荷物と、私の横で死にかけているレイカさんを回収していった。

……優秀だなぁ。

あんな重い荷物を直ぐに持って行けるだなんて。

……ん?

あれ、待って、おかしくない?

私はとある違和感に気づいてしまった。


「ゆ、ユキさん……、待って下さい……? 黒服達がいるなら、私、荷物持つ必要無くないですか?」


「……そうね。 それがどうしたのかしら?」


不思議そうに首をかしげるユキさん。


「じゃ、じゃあなんで私が荷物持たされてたんですか! 意味分からないでしょ!!」


「……? あなたが自分で持つって言ったからじゃない? 何を驚いているの?」


「そ、それはユキさんが自警団の人達を呼ぶって言ったからで……、もぉぉぉぉおおおお!!」


話をしていて、頭がおかしくなりそうだった。

すると、そんな発狂寸前の私を見てユキさんは、


「ヒカリさん……、やっぱり頭が……、少し休んでいなさい」


両肩に手を置き、私をベンチに座らせた。

そして、


「後は、私一人で十分よ。 それじゃ」


と言い残し、何処かに行ってしまった。


「……え? えぇ……。 ちょっと……」


遠くなっていくユキさんの背中を呆然と眺める私。

……まぁ、結果として休めるからこれで良かったのかな?

……寝よう。

披露がピークに達していた私は、自分自身にこれで良かったと言い聞かせながら、ベンチに横になり、ゆっくりと目を閉じた。


「ザワ…… ザワ……」


私が、目を瞑って数十分が経った頃、前方から騒がしい声が聞こえてきた。

……何だろう?

そう思い、ベンチから起き上がり、前方に視線を向けるそこには……、


「……」


「お、お客様……、こ、このような場所で、こ、困ります……。 そ、そんなに睨み付けてられても、お値引きは……、ひっ……」


シューズを持ちながら、白目を剥いている強面の黒人マッチョと、その目の前でビクビクと震えている店員がいた。

あ、あれ……。

ぼ、ボブさん?!

てっきり、黒服の人達がレイカさんを連れて行った時に、一緒に迷子センターから回収されたものだと……。

……や、やばい、大事になる前に回収しなきゃ。

そう思った私は、直ぐに人だかりの間に割って入り、


「あ、あはは……、すみませんー!!」


と言って、ボブを片手に持ち、その場から逃げるように去って行った。

その後ろからは、


「あ、ちょっとお客様?!」


店員が叫ぶ声と、


「何あれ……、誘拐?」


「誰か……、自警団を……」


と背筋が凍るような会話をしている人達の声が聞こえてきた。


「ヤバい……、ヤバい……、ヤバい……」


そう呟きながら、逃げるように階段を降りる私。

しかし、出入り口の方から、


「居たぞ! あそこだ!!」


先回りしていた自警団の人達が叫ぶ声が聞こえてきた。

……あ、終わった。

私は、全てを諦め、その場で座り込んだ。

さようなら、私の人生。

来世はもっとましな人達とパーティーが組めますように……。

そう思い、ギュッと目を瞑った。

すると、どこからともなく、


「アン、アン、アンッ」


と見知った人物が階段を転げ落ちてくる声が聞こえてきた。


「へ……? な、なんでここに……」


恐る恐る目を開けると、そこには、全身血まみれで階段を転げ落ちているマツザカがいた。

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