第34話 吐き気を催す邪悪とはまさにこのことね

「ゆ、ユキさん、もう十分でしょー! 早く帰りましょうよー」


私は、両手に抱えきれないほどの荷物を抱え、涙目になりながら目を前を歩くユキさんに、許しを請った。

しかし、ユキさんは、


「何を言っているの。 まだ全部回りきってないでしょ? あ、あそこのお店、良さそうですわ~」


と元気そうに別の店を指さしていた。


「ま、まだ買う気なんですか?! もう持てませんよ?!」


「あら、不満そうな顔ね。 嫌なら付いてこなくても良いのよ?」


「……そうしたら、また自警団の人達を呼ぶんですよね」


「よく分かってるわね。 先ほどは私の誤解ということにしておきましたけど、次はそうもいきませんわよ」


クスクスと笑いながら、とんでもないことを言い放つユキさん。

そんなユキさんに私は、


「分かりました! ついて行きますよ! ほら、早く入りましょう!!」


半泣きになりながら従い、率先して店の中に入っていった。


「ふふ、やる気があって結構。 ご褒美に、ここで何か買ってあげましょうか?」


わたしの横でそんなことを呟くユキさん。


「ここで……ですか?」


ユキさんと一緒に入店したのはペットショップ。

もちろん、ペットは好きだし、目の前の犬や猫、ハムスターは飼ってみたいけど……。


「すみません、うちのマンション、ペット禁止で……。気持ちは嬉しいですが、遠慮しておきます」


「あら、そうなの。 残念ね。 でも、中には許可が出る動物も居るんじゃなくて? 例えば、あの豚とか」


「豚……ですか?」


あれ? 

ペットショップに豚なんて売ってたっけ?

最近のお店は、そういうのも取り扱ってるのかな?

子豚ならちょっと飼ってみたいかも……。

そう思い、顔を上げると、


「ハァ……、ハァ……、きゃ、きゃわいいよぉぉぉぉおおおお。 ペロペロペロペロペロペロ」


見知ったスク水姿の人物が、鼻血を出しながら、犬が入った檻をペロペロと舐めていた。


「は、ハルキさん……? な、何やって……、気持ち悪っ」


全身に鳥肌がたった。

ハルキの奇行は今に始まったことじゃないし、ある程度耐性もついてきていたが、この見るもの全てに吐き気を催させる悪夢のような光景は、流石にキツかった。

実際、隣にいる店員らしき女性も、


「お、お客様……、な、何を……、おろろろろろろろろろろ……」


と同じ人間を見た時とは思えないリアクションを取っている。

そして、ユキさんも、


「吐き気を催す邪悪とはまさにこのことね……、うっ」


若干吐きそうになりながらハルキを見つめている。


「ゆ、ユキさん……、話しかけられると面倒です。 一旦店を出ましょう。 ここで私達が倒れたら、無理を言って、迷子センターで預かって貰ってるボブさんとレイカさんが路頭に迷うことになります」


「そうね……、ここは一旦引きましょう。 あまりにも、おぞましすぎるわ」


珍しく、私の提案に素直に乗ってくれるユキさん。

今の私達は、それほどまでに危機的な状況に置かれているということだろう。

ここは一刻も早く、逃げよう……。

そう決意し、一歩を踏み出した私達だったが、最悪の事態が起こってしまった。


「あ、ユキ嬢! それにヒカリさんも!! 探したんですよ~、買い物をするなら、いつかここに来ると思って、先回りしてきましたが、正解でしたね~」


笑顔で私達に近づく、悪魔。


「そ、そんな……」


「あ、ぁぁああああ……」


最悪の事態に、私達は崩れ落ちてしまった。


「ど、どうしたんですか?! 二人とも!!」


そんな私達の気も知らずに、悪魔はゆっくりとこちらに手を延ばす。

終わった……。

目の前が真っ白になり、放心状態になっていると、ユキさんが、現状を打破する最高の一手を打ち出してくれた。


「きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 誰か助けてええええええええ!」


耳痛くなるほどの大声で叫ぶユキさん。

同時に、ガヤガヤと慌ただしくなる店内。

目の前の悪魔は、この状況を受け、


「え? ちょ、な、何言ってるんですかぁああああ?」


と慌てふためいている。

そして遂に、


「ど、どうされました? って、うわぁぁぁぁああああ! なんだこいつはぁぁああああ!」


警備員らしき人物が数人現れた。


「た、助けて下さい……、この人、私達を襲おうとしたんです」


警備員達に向かって、顔を押さえながら状況を説明するユキさん。

すると、悪魔は、


「な、何言ってるんですか!! ち、違いますよ!! 僕たち知り合いです!! ね、ヒカリさん!!」


ポンっと私の肩に手を置き、精神攻撃を仕掛けてきた。


「な、なに……、こいつの仲間だと……?」


一気に表情が険しくなる警備員達。

まずい……。

このままじゃ私も犯罪者になる……。

そう思った私は、咄嗟に悪魔の手を振り払い、


「そんなわけないでしょ! 誰ですか、あなた!! それに、私の名前はヒカリじゃありありません!! 二度と話しかけて来ないで下さい!!」


と叫び、その場を後にした。

後ろで、


「そ、そんなー、あっ、ま、待って下さい! ヒカリさん! 見捨てないでー! うわーー」


号泣しながら、私の名前を呼ぶ悪魔。

そんな悪魔を無視して、私はユキさんと逃げるように店を飛び出した。

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