第33話 誤解を解いて下さい!

「ぜはぁ……、ぜはぁ……。 に、逃げ切れた……」


ボブとレイカさんを地面に下ろし、その場に倒れ込む私。


「お疲れさま、ヒカリさん。 無事で何よりだわ」


「ぜ、全然無事じゃないですよ……。足の裏が焼けるくらい痛いし、下半身もガクガクです……、自警団の人にも追いかけられるなんて聞いてません……。 おえっ」


あの後、併走するユキさんの指示に従い何とか森を脱出した私だったが、ハルキを捕まえるため、町の入り口で待ち伏せしていた自警団の人達にもなぜか追われることになり、地獄を見た。

体験でも、一時間近くは走ったと思う。

しかも、泡を吹いて気絶しているボブと定期的に口から何かを吐き出しているレイカさんを抱えて。

私の体は、既に限界を迎えつつあった。


「それにしてもあなた、体力だけはあるのね。 見直したわ」


「ゼハァ……、ゼハァ……昔から、強そうな魔物に会ったらすぐに逃げてましたから……。 いつの間にか体力が付いちゃたんです……」


「ふふ、そんなのね。 それは、良かったわ! つまり、まだ歩けるってことよね」


「はい? いや、そういうわけじゃ……、いやっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」


へたへたと地面に座っている私の服を強引に引っ張るユキさん。

そして、


「駄々をこねないの。 早く横の二人を持って! 次が最後だから、頑張りなさい」


と悪魔のようなことを言い、走り出した。


「ちょ、ホントに、無理ぃぃぃぃいいいい!」


叫び声をあげながら、ユキさんに付いていく私。

そして30分後、


「おぇ……、も、もう、無理……、おろろろろ……」


「もう、ヒカリさん、シャキッとなさい。 早く店に入るわよ」


ようやく、最後の目的地である、地元のデパートに着いた。

しかし、私の体力は限界を迎え、腕に抱えているボブとレイカさんなどお構いなしに、嗚咽を漏らしまくっていた。


「だ、誰のせいですか……。 買い物ならユキさん一人で行って下さいよ……」


「あら、せっかくここまで来たというのに……、酷いわ……」


「しょ、しょうがないでしょ……、もう歩けないんですから……」


実際、足の裏は皮がむけ、あちこちが痛み始めていた。

しかし、ユキさんはそんな私を心配する素振りも見せず、ほっぺををプーっと膨らませていた。


「……そんな可愛い顔しても、動きませんからね」


黙っていれば元が良いユキさんがほっぺを膨らませ、こちらをうるうるとした目で見つめる姿は、同性の私から見ても、心が奪われそうになるくらい、可愛かったが、それとこれとは別の話。

私は意地でも動こうとしなかった。


「……はぁ、この方法だけは取りたくはなったのだけど、仕方ないわね」


そう呟き、スーッと息を吸い込むユキさん。

……何をする気だろう?

そう思い、ユキさんを見ていると、次の瞬間、彼女の口から恐ろしい言葉が飛び出した。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、誰か助けてぇぇええええ! この人達、私を連れさるきよぉぉおおおお!!」


「ちょ、はぁぁぁぁああああ?」


ザワ……、ザワ……


ユキさんの声を聞き、慌ただしく周囲の人達。

しかも、所々から、


「……誰か自警団に連絡を……」


と恐ろしいセリフが漏れ出ている。


「ゆ、ゆゆゆユキさん! 何やってるんですか!! このままじゃ私、犯罪者になっちゃうじゃないですか!?」


私は、慌ててユキさんの両肩を掴み、詰め寄った。


「ふふ、そうね。 ビキニの強面マッチョと酔っ払いやさぐれ女を両手に抱えた女の話なんて、聞いてもらえないでしょうね。 捕まったら間違いなく牢屋行きだわ。 どうしましょうか、ヒカリさん?」


余裕そうな笑みでこちらを見つめるユキさん。

そんなユキさんに私は、


「うぅ……、分かりました! 一緒に買い物に行けばいいんでしょ! 行けば!!」


と泣きそうになりながら、告げた。


「……それだけかしら?」


「わがままいってごめんなさい! これからずっと歩きます! 走ります! どこにでもついて行きます! だから、だから!!」


「いたぞ! あそこだ!!」


「ヒィイイ!!」


私が全てを言い終わる前に、現れてしまった自警団。


「ご、誤解ですー! ユキさん、早く! 早く誤解を解いて下さい!!」


そして、自警団から泣きながら逃げる私。

そんな光景を見て、ユキさんは、


「おほほほほほ」


と笑顔を浮かべていた。

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