第32話 この子と結婚します!

「さて、次はここね」


町の近くにある森の中に、躊躇いなく入っていくレイカさん。

その後ろを、


「ぜはぁ……、ぜはぁ……。ま、待って下さい……」


息絶え絶えに追従する私。


「……なんでそんなに息を切らしているの? ヒカリさん?」


「し、仕方ないじゃないですか! ボブさんとレイカさんを両手に抱えて逃げるの、大変だったんですから」.


あれから、強面の顔が原因なのか、なぜかスラムの人達に距離を置かれるボブを盾にして、レイカさんを回収し、スラムから脱出した私だったのだが……、


「置いていかないでくださ~い、ヒカリさ~ん!」


ハルキがそんなふざけた事を言いながら、自警団とスラムの人達を連れて追いかけて来たせいで、ビキニのボブと酔って吐きそうになっているレイカさんを両手で抱えながら町中を逃げ回ることになった。


「ふふ、逃げ切れて良かったわね。そう言えば、スク水豚野郎の姿が見えないけど、あれはどうしたの?」


「あぁ、ハルキさんなら途中で見つけた捨て犬を保護しようとして、捕まってました。助ける気もなかったので、その後どうなったかは知りません」


「あはは、ヒカリさんも鬼畜なことをするのね。もしかして、あなたも人を虐めることに快感を覚え始めたのかしら?」


「ゆ、ユキさんと一緒にしないで下さい! 今回は助ける余裕も気力も無かっただけです!」


「……ふふふ、そうだったのね。残念だわ。今度からは、もっと徹底的にやれると良いわね」


そう言って、私の背後に視線を移すユキさん。


「はぁ? 何言って……」


「ヒカリさ~~ん」


突如、誰か肩を掴まれた。


「ひゃっ! だ、誰ですか?!」


慌てて振り向くとそこには、


「ヒカリさん、酷いじゃないですか……、置いていくなんて……」


涙目でボロボロのスク水を纏っているハルキがいた。


「は! ハルキさん?! ぶ、無事だったんですか?」


「えぇ……、まぁ……、数発殴られましたけど、どうにか抜け出せました」


「そ、そうですか……」


「え? なんでちょっと元気無くなってるんですか? 無事だったんですよ?!」


「は、ははは……うぇっ」


「なんですか! そのリアクション!! 僕泣いちゃいますよ!!」


ハルキの姿があまりに気持ち悪くて、えずいてしまった。

さて、涙目になってるこのクソキモ猿をどうやって慰めるか……。

そんな事を考えていると、


ドドドドドド


森の奥から突如、轟音が聞こえてきた。


「え? な、何の音ですか?」


「この音……、まさか」


いきなりよだれを垂らし始めるハルキ。


「えっ……、キモ……」


ハルキを見て、そう思っていると、


「ヒカリさん! 横!! ずるい!!」


「へ?」


横にあった草むらから、ディアーが凄まじい勢いで飛び出してきた。


「さ、させない! 君を抱っこするのは僕だぁぁああ!!」


気色の悪い顔で私の前に仁王立ちするハルキ。

そして、


ドンッ


と鈍い音を立てながら、ディアーをホールドした。


「ナイスですわ! 豚!! これで生肉ゲットですわね!!」


パチパチと手を叩くユキさん。


「え? 食べるんですか?! 嫌です! 嫌です!! 僕はこの子と結婚します!!」


そんなユキさんにダダをこねるハルキ。

すると、ユキさんは、


「もう、うるさい豚ね! あなたの性癖はどうなってるの?!」


若干イライラしながら、ハルキの元に近づき、


「ホラッ」


ディアーとハルキに向かって、鞭で無慈悲な一撃を入れた。


「ギャインッ!」


「ぎょわぁぁああ!」


断末魔をあげ、倒れるディアーとハルキ。

そして、数秒後、立ち上がったハルキはディアーを抱え、


「お、おい、しっかりしろ……、嘘だろ……。 僕が無力なばかりに……。 クソー!」


いきなり発狂し始めた。


「何この人、キモ」


ハルキを見て、何時になくドン引きする私。


「あら、ヒカリさん。今日はえらく毒舌ね」


「えぇ、まぁ。さすがにこれは無いです。これ以上一緒に居たくないで、ここに置いて行きますか? この人?」


「囮にするということかしら。ふふ、あなた、悪魔のような考えをするのね。でも、良いわ。こいつを置いてさっさと逃げましょう」


「そうですね……。ん?」


逃げる?

何から?


「あのー、ユキさん? 逃げるってどういう……」


「もちろん、あいつらからよ」


茂みの中を指さすユキさん。

恐る恐る、指さした先をみると、


「なっ、なっ、なっ……」


こちらを睨み付けている大量の魔物がいた。

ざっと見ても、20匹以上はいる。


「は、ははは……、ユキさん。これ何とか出来ませんか……」


「出来ないことも無いけど……、あなた達も吹き飛ぶわよ」


「で、ですよねー」


ハルキを囮にして逃げたいけど、ボブが居る以上、魔物は絶対にこちらに襲いかかってくる。

だからといって、ボブとレイカさんを置いていくなんて出来ない。

かくなる上は……。


「ふぅー」


深く深呼吸して、息を整える私。

そして、


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」


と叫びながら、ボブとレイカを両手に抱え、全力でその場から逃走した。


「あはははは、ヒカリさん、出口はこっちよ~」


「ゴール →」と書かれたプラカードを持ちながら私に併走するユキさん。


「……」


「おろろろろろろろろろろ……」


私に抱えられながら、気絶しているボブと吐き気が限界に達したのか、口から色々出ちゃってるレイカさん。

 

「ミューーーー!!」


そんな私達の後ろを独特な鳴き声をあげなら追いかけてくる魔物達。

そして、


「おん、あん、ぐひ、ぼふ、いい、いいいよぉぉぉぉおおおお! 目覚めちゃうぉぉぉおおおお!」


魔物に踏まれ、気持ちよさそうにしてるハルキ。


そんなカオスな状況の中、私は全力で森を駆け抜けた。

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