第28話 ツッコミどころが多すぎる……

ユキさんとの地獄のお買い物当日。


「はぁ……」


私は、憂鬱な気分で、待ち合わせ場所へと向かっていた。

そんなどんよりとした気分で歩くこと数十分、


「なんで、休日までここに来なきゃ行けないの……」


遂に、MMTと書かれた標識が飾られているドアの前に到着した。


「はぁ、ユキさーーん、来ましたよ」


そう言って、ドアをコンコンと叩く。

すると、中から、


「あら、遅かったわね。開いているから、早く入りなさいな」


とユキさんの声が聞こえてきた。

ユキさんの指示通り、鍵の開いているドアを開け、事務室の中に進むと黒服のうえで優雅にミルクティーを飲んでいるユキさんがいた。


「お、おはよう……、ございます」


「あら、ヒカリさん。朝から酷い顔ね」


「だ、誰のせいですか……」


「あら、何か言いたげな顔ね。せっかく起こしてあげたというのに、酷いわ」


「あ、当たり前じゃないです! 起こすにしてもやり方があるでしょ! マンションの周りを黒服達で囲って一斉にモーニングコールとか、頭おかしいんじゃないですか?! しかも、朝の4時に!!」


「あら、素敵な目覚ましだと思ったのだけど、お気に召さなかったかしら?」


「気に入るわけないでしょ! 近所の人達から自警団を呼ばれたうえに、なぜか私が管理人さんに謝罪することになったんですよ?! 今回はなんとか許して貰えましたが、次は間違いなくマンションを追い出されちゃうので、二度とこんなふざけた真似しないで下さいね?!」


「ふふ、分かったわ」


クスクスと不敵な笑みを浮かべているユキさん。


「ほ、ホントに分かってるんですか……。まぁ良いです」


私はため息をつきながら、近くにあった椅子に座り、鞄の中からおにぎりを取り出した。

すると、ユキさんは不思議そうな顔をしながら、


「あら、ヒカリさん。何をなさっているの?」


と私に近寄ってきた。


「朝ご飯を食べるんです。早朝からご近所さん全員に謝罪する羽目になったので、朝食を取る時間がなかったんですよ。皆さんが揃うまでゆっくりさせて下さい」


「……? 何を仰っているの? もう全員揃っているじゃない?」


「……は?」


ユキさんの口から発せられた衝撃的な一言に、困惑しキョロキョロと辺りを見回す。

しかし、


「な、何言ってるんですか、ユキさん。この部屋には私達と黒服の人しかいないじゃないですか」


それらしい人影は一つも見当たらなかった。


「そっちじゃないわ。上よ。上」


人差し指で上を指さすユキさん。


「うえ……?」


言われたとおり、視線を上に移すと、


「ふごー、ふごー」


「は、ハルキさん?!」


なぜかパンツ一丁で天井に吊されているハルキがいた。

しかも、口輪と目隠しをされ、体中を亀甲縛りにされている。


「ど、どどどどうしてあんなアクロバティックな姿になってるんですか!」


「自業自得よ。せっかく私が弄ってあげたというのに、あの男ったら、全然面白いリアクションをしないんだもの。罰として、室内干しにしてるのよ」


「えぇ……」


確かに、おふざけが大好きなユキさんと変なスイッチが入らなきゃ真面目なハルキさんの相性は最悪そうだけど、ここまでとは……。

可哀想だけど、私まであんな無様な格好になりたくないし、見なかったことにしよう……。

それより、


「あのー、ボブさんはどこにいるんですか? まさか、ボブさんも酷い目に……」


「あら、私がそこまで鬼畜に見えているなんて、悲しいわ。安心しなさい、あの男には何もしていないから」


「そ、そうなんですね……」


それを聞いて、少しだけ安心した。

見た目が怖いだけで、基本、人畜無害なボブまであんな目に遭ってたら、可哀想だもん。


「じゃ、じゃあボブさんは一体どこに……」


「あそこよ」


つま先を窓の方に向けながら、足をクイッと動かすレイカさん。

釣られて、窓の外に視線を向けると……、


「ぼ、ボブさーーーーん!」


朝日を浴びながら、大量の鳥に群がられているボブがいた。


「あ、あれはあれで、どういうことですか!」


「私も良くは見ていなかったのだけど、犬の報告によれば、花に水をあげるようと、外に出た時に日光が強すぎて気絶しちゃったそうよ。その直後、なぜか鳥たちが集まってきてね。世にも奇妙な光景の完成よ。天井のゴミと違って、面白いわよね、彼」


「は、はぁ……」


意味不明な説明すぎて、理解が追いつかなかった。

まず、日光を浴びて気絶するって何? 

ビビリなのは知ってたけど、そこまで?

しかも、ボブさんの体質って魔物だけじゃなくて、普通の動物も対象なの?


「つ、ツッコミどころが多すぎる……」


そう呟き、頭を抱える私。

ユキさんは、そんな私を気にかける素振りも見せず、


「それじゃあ、出発しましょうか」


と言いながら、空になったコップを黒服の顔面に叩き付け、そそくさと部屋を後にしようとした。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 買い物って、私、何を買いに行くか聞いてないんですけど! それと、ちゃんと割れたコップの破片、集めて下さい!!」


「あら、急に元気になったわね。安心してちょうだい。メモなら預かってるわ」


黒服の上で紙をひらひらと動かすユキさん。

私はその紙をぱしっと掴み、


「み、見せてください」


とユキさんに詰め寄った。


「いいけど、何も面白いことは書いてないわよ」


珍しく、素直に紙を手渡してくれるユキさん。

そして、紙の中身をみると……、


「な、なにに使うんですかこれぇぇぇぇ! ってか、字汚なぁぁああああ!」


マツザカが書いたであろう、象形文字のような謎の文字で、用途不明な品の数々が羅列されていた。


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