第27話 なんで私まで!
「……ゆ、ユキお嬢さま、今なんと仰いましたか?」
ギルドに戻った私達の報告を聞き、口元をピクピクと動かしながら、苦笑いを浮かべるユキさん。
そんなレイカさんに向かって、ユキさんは、
「あの大穴は私が作ったと言いました」
と笑顔で答えた。
「じょ、冗談ですよね……」
「あら、私が冗談を言っているように見えるの?」
余裕そうな笑みを浮かべ、レイカさんを見つめるユキさん。
「あ、あははは……、おぐっ……」
突如、お腹を抑え俯くレイカさん。
「れ、レイカさん! 大丈夫ですか!?」
私は慌ててレイカさんに駆け寄った。
「だ、大丈夫じゃない……、い、胃薬……とってぇ……」
レイカさんが椅子の横に置いてある鞄を指さす。
「は、はい! えっと……、これですか?」
「う、うん……、ありがと……」
やせ細った顔で、必死に胃薬を口にするレイカさん。
今の彼女は、日ごろの強気な姿から想像出来ないほど、弱りきってしまっていた。
「……ユキお嬢様、つかぬ事をお伺いしますが、なぜあんな大穴を?」
「私が全力で魔法を打ったらどうなるのか知りたかったからですわ。何事も試してみるのが大切でしょう?」
「なるほど……。それでマツザカを的にして、魔法を打ったと。でも、よく数カ月も隠し通せましたね」
「一応、穴の底に対人間用の認識阻害魔法をかけていましたから。でも、驚きましたわ。まさかグリフォンが巣を作っていたなんて。きっとあれらが穴の底を荒らしたせいで、私の魔法が消えてしまっていたのね」
「なるほど……、グリフォンが巣を……。って、はぁぁああああ?」
「……? 何を驚いているの?」
「ちょっと待ってください、グリフォンがいたんですか?!」
「あら、聞いていなかったの? いたわよ、しかも変異種が。そうでしょ、ゴミ」
ユキさんが、ギルドの入り口で自警団に詰問を受けているマツザカに話を振った。
「ああ、しかも二体も! 凄かったなぁ、レイカちゃんにも見せてあげたかったよ」
「おい、貴様! 勝手に発言をするな」
「ブハッ」
自警団に殴られるマツザカ。
普段なら可愛そうと思うところなのだが、上半身裸でボロボロのスカートを履いているマツザカを見ていると、なぜかそんな気が起きなかった。
「そ、そういった重要事項はすぐに報告してくださいよ! あの近辺ではつい先日、魔物による誘拐事案が発生したばかりなんですよ! ユキお嬢様のお話は、この事件を解決する手がかりになるかも知れません。後で詳しく聞かせて下さい」
「まぁ、魔物が人をさらったの? それは恐ろしいわね」
クスッと悪魔のような笑顔を浮かべるユキさん。
……それって。
背中から変な汗が吹き出してきた。
「あ、あのー、すみません。その事件って、この世のものとは思えない姿の魔物に、女性二人がさらわれったって内容だったりしませんか?」
「ん……? なんだ、よく知ってるな。なんでも、幻術を使う魔物らしくてな。見た目はヒカリの言う通り、目が潰れるほどおぞましいらしい。今、ギルドが全力をあげて調査してるところだから、お前達も気を付けろよ」
「あ……」
終わった。
「あの-、レイカさん。怒らないで聞いて欲しいんですけど……」
「ん? なんだ? まさか、その魔物はマツザカですー。なんて言うなよ」
「……スゥー」
「おい、まて! なんだその反応?! 嘘だろ……、嘘だよな! 嘘だと言ってくれ!!」
涙をポロポロと流しながら、私の服を掴むレイカさん。
そんなレイカに私は、
「ざ、残念ですが……」
と俯きながら答えた。
「……、は、ははははは」
乾いた笑い声を浮かべながら椅子にへたり込むレイカさん。
すると次の瞬間、
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
レイカさんは、発狂しながら、机にガンガンと頭を打ち付け始めた。
「な、何やってるんですか! 血が! おでこから血が出てます! 落ち着いて下さい!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙、も゙ゔい゙や゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
完全に頭がおかしくなってしまったレイカさん。
「レイカさん! それ以上はダメです! 頭がマツザカさんになっちゃいます!」
レイカさんを止めようと、後ろから押さえつける私。
「れ、レイカちゃん! なんて素晴らしいんだ! 俺もやるぞぉぉおお!!」
「おい、こら! 何をやっている!」
そして、発狂するレイカさんを見て、なぜか床に頭を打ち付け始めたマツザカ。
マツザカの奇行を止めようと、必死にマツザカの腕を掴む自警団。
「おほほほほほお、愉快ですわ」
その様子を、黒服集団の上に座り、笑いながら眺めているユキさんと
ざわ…ざわ…
私達を見て、ドン引きしている、ギルドに立ち寄っていた一般の人達。
「も、もう、なんなんですかこれ~~!」
ギルドの一角は、もはや収拾がつかないほどほどカオスな状況になり果てていた。
一体どうすれば……
そんなことを考えていると、
「こんちわ~、レイカちゃん。少しだけ変わってもらって良いっすか……、って、なんすかこれ!?
ギルドの奥から、青色の髪の上に、赤い眼鏡をのせた女の人が出てきた。
そして、
「あのー、これどうしたんすか?」
と私に話しかけてきた。
「えーと、どうやって説明したら良いか……。ちょっと色々あって……、あ、ちょ、レイカさん! 噛まないで下さい! 痛い! 痛いです!!」
「ちょっとすか……」
発狂したレイカさんに腕を噛まれている私と、後ろのマツザカ達をジッと見つめる女性。
すると、彼女の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
「さすが、マツザカと愉快な仲間達……。もれなく全員頭おかしいっすね……」
「そうですね、全員頭おかしい……、って待って下さい! なんで私まで入ってるんですか!! 今すぐ訂正して下さい!! っていうか、誰ですか! あなた!!」
「わーお、ナイスツッコミ」
胸元で、パチパチと小さく拍手する女性。
「は、はぁ……、ありがとうございます?」
なんだろうこの人……。
変なペースにさせられるなぁ……。
そんな事を思っていると、
「むむ、そこにいるのはツバキちゃんじゃないか! 久しぶりだね! 元気だったかい?」
自警団に十字固めにされているマツザカが、突如、話に入ってきた。
「ウチは元気っすよ! マツザカさんも、その……相変わらずで。楽しそうでいいっすね」
「ああ! とても楽しいよ! クセになっちゃいそうだ! ツバキちゃんも一緒にどうだい?」
「あ、あはは……、ウチは遠慮しておくっす。マツザカさんの邪魔をしても悪いし、ウチはちゃっちゃと要件済ませて帰りますね。はいコレ」
マツザカに関わりたくないのか、ツバキさんは、さりげなく目をそらしながら、自警団に抑えつけられているマツザカに一枚の紙を手渡した。
「ふむ……、緊急会議の招集令か。これは困ったな」
自警団の抑えつけられている状態で、器用に体をくねらせながら、渡された紙を眺め、不満そうな表情をするマツザカ。
「……? 何か不明な点でもありました?」
「いや、そうじゃなくてね。内容については、概ね理解したよ。ただ……日程がね」
「あぁ、他のクエストと被ってるんすか。それなら、ウチが別のパーティーに依頼しきますよ」
……あれ?
その日にクエストなんて入ってたっけ?
もしかして、また勝手にクエストを受注したのかな?
そう思っていると、マツザカが衝撃の言葉を口にした。
「いや、違うんだ……、その日は、皆でお買い物をしようと思ってたんだー!」
「……は?」
なにそれ……。
しかも、今「皆で」って言った??
「ちょっと、マツザカさん、何言ってるんですか? 私、そんな話聞いてないですよ!?」
「そうなのかい? てっきりユキ嬢から聞いているものかと。ユキ嬢! ヒカリさん、誘わなくて良いんですかー!」
ユキさんの名前を大声で呼ぶマツザカ。
「うふふ、もちろんお誘いするつもりでしたよ。当日の朝にね。サプライズというヤツですわ! せっかくヒカリさんと仲良くなれたんですもの! 皆でこっそりとヒカリさんのおうちにお邪魔する予定でしたのよ!」
そんなマツザカに、とんでもない返事を返すユキさん。
すると、マツザカは、
「そうだったんですね。聞いての通り、俺は会議に招集されてしまいました。当日は俺抜きで楽しんでもらって良いですか?」
と返事を返した。
「ええ、構わないわ」
私抜きで勝手に話を進める2人。
ま、まずい……。
このままじゃせっかくの休日が変人達に潰されてしまう。
そう思った私は、
「ちょ、ちょっと待って下さい!! い、嫌ですよ、そんなの! 私だってプライベートがあるんですよ?! それに、休日まで頭のおかしな人達と関わりたくありません!!」
「ふふ、ヒカリさんも言うようになったわね。でも、本当に断って良いのかしら?」
不敵な笑みを浮かべながら、一枚の紙をヒラヒラとさせるユキさん。
「な、なんですか……、その紙……」
「見れば分かるわ」
そう言って、ユキさんが紙を手渡してくる。
そこには、
「号外 発見 新種のムーンラビット」という見出しと共に、見覚えのある人物が書かれていた。
「こ、これ、私じゃですかーー!」
「あはは、何を仰っているの、ヒカリさん。これは新種のムーンラビットよ。しかも、恥ずかしげも無く、耳を動かして、ぴょんぴょんなんて鳴くね」
「な、なんで知ってるんですかぁぁああああ!」
恥ずかしさがこみ上げてきて、死にそうだった。
「おほほほほほ、言ったでしょ、私の情報網を舐めないでと。さて、ヒカリさん。私の申し出を断るのなら、その号外をここだけじゃなく、全ての支部にも張り出しますが、いかかがなさいますか?」
「う、うぅ……、分かりました! 行けばいいんでしょ! 行けば!!」
「あははははははは、それでは当日を楽しみにしていますわ」
嬉しそうに笑い声をあげるユキさん。
そんなユキさんを見て、マツザカは、
「いいなぁ……」
と呟き、ツバキさんから渡された紙を悔しそうに咥えていた。
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