第26話 なんですかそれぇぇぇぇ

「俺は鳥になったぞぉぉおおーーーー!」


よだれを垂らしながら、グリフォンを目掛けて真っすぐに飛んでいくマツザカ。

そして、


ボフッ


という音を鳴らしながら、マツザカがグリフォンのお腹の中に突き刺さった。


「ピィィイイ」


叫び声をあげながら後ろに吹き飛ばされるグリフォン。

その先には壁があり……、


ドンッ


凄まじい轟音を響かせながら、その巨体が地面にめり込んだ。

そして、数秒後、


「ビィィイイ……」


消え入りそうな鳴き声をあげながら、地上に落下するグリフォン。


「今ですわ! ヒカリさん!!」


グリフォンを指さしながら、合図を出すユキさん。

しかし、私は……、


「ま、まってくださいぃ……。め、目がぁぁああ」


目が回って動けなかった。


「ひ、ヒカリさん? 何を遊んでいるの?」


「あ、遊んでるわけじゃぁ……」


ガクッとその場に倒れ込む私。


その間にグリフォンは、


ドスンッ


と重厚感のある音を立てながら、地上に落下した。


「もう、仕方ないですわね。ここは私が出ますわ」


呆れた顔をしながら、グリフォンの前に立つユキさん。

そして、


「さぁ、行きますわよー」


そんなかけ声と共に、グリフォンの体をビシビシと叩き始めた。


「ちょ、ゆ、ユキ嬢! 俺もいますって、ひょわ! ひゃぁぁああん!」


全身を鞭で叩かれ、顔を歪ませながら、痛々しい声をあげるグリフォンと、アへ顔で気持ち悪い声を出すマツザカ。


そんな魑魅魍魎がうごめく地獄の底のような光景が10分ほど、繰り広げられ、


「ビ……、ビィィイイ」


「オホッ……オホッ……」


グリフォンとマツザカは、今にも昇天しそうな姿になり果てた。


「さぁ、トドメですわ!!」


笑顔で鞭を振りかぶるユキさん。


「ビィ……」


「ら、らめぇぇええええ!」


涙目でユキさんを見つめるグリフォンと、もの欲しそうな目で鞭を見ているマツザカ。

そんな二人を眺め、ユキさんはニヤリと笑い、


バチチーーン


力一杯鞭を振り下ろした。


「ビィィイイイイ!」


「ヒャアアアア!」


断末魔をあげ、動かなくなるグリフォンとマツザカ。


「お、終わったんですか?」


「えぇ」


済ました顔でこちらに向かってくるユキさん。


「よ、良かったー、後はここから脱出してクエスト完了ですね」


「そうね、もう面白いことも起きそうにないし、帰るとしましょうか。ヒカリさん、立てる?」


「あ、だいじょ……、きゃっ」


激しく回され過ぎたせいか、今だ足下がおぼつかず、後ろに倒れ込んでしまった。


「ちょっと、大丈夫なの? あまり無理なさらない方が良いですわよ」


「あ、あはは……、すみません。……ん? なんだろう? これ??」


ふと、右の手の平にヒラヒラとした何かの感触を感じた。

それの正体が気になり、たぐり寄せてみると、


「ふん……どし?」


白いふんどしが手の中にあった。

しかも、所々に焦げた跡がある。


「あら、それは……。……この穴、もしや……」


意味深なセリフを呟きながら、私から距離を取るユキさん。


「え? ちょ、ユキさん? どうしたんですか??」


「……ヒカリさん、その……、ふんどしの裏側を見て下さらない? 文字が書かれてないかしら」


「文字ですか?」


ユキさんの指示に従い、ふんどしを裏返すと、


『マツザカ』


一言一句違わずそう記載されていた。


「う、嘘……、これって、つまり……」


「お、おほほほ」


ユキさんと私の間に気まずい沈黙が流れる。

そして、数秒後、


「きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


私は、喉が掻ききれるくらいの叫び声をあげ、ふんどしを放り投げた。


「な、ななな、なんでマツザカさんのふんどしがここに! しかも、しかも、なにこれ、くっさぁぁああああ! お、おぇぇぇぇええええ」


マツザカのふんどしからは、一年洗っていないボロぞうきんのような悪臭が漂っていた。


「ひ、ヒカリさん! そんな危険物、私の方に投げないでくださる?!」


そう言って、鞭でふんどしを摘まみ、私の方へ投げ返すユキさん。


「ゆ、ユキさんこそ! おぇぇぇぇええええ、なにこれ、おぇぇぇぇええええ」


マツザカのふんどしが空中に放り出されたことで、気絶しそうなほど強烈な悪臭が辺り一面に広がってしまった。


「おぇぇぇぇええええ、な、なにこれ、流石におかしい……、おろろろろろろ」


マツザカがいくら臭いと言っても、流石に、度が過ぎている。

一体このふんどしに何が……


「そ、それは恐らく、豚がここに放置していたふんどしだからですわ……、うぐっ、ガハッ」


「ゆ、ユキさーーーーん!」


あまりに酷い悪臭に耐えきれず、バタッと倒れ込むユキさん。

私はそんなユキさんに駆け寄り、


「い、一体どういうことですか?! 最後に教えて下さい!!」


手を握りながらそう言った。


「ひ、ヒカリさん……、そうね……、気を失う前に、あなたに話しておくわ。あれは数ヶ月前のことでしたわ……」


薄れる意識の中、私に衝撃の事実を伝えるユキさん。

その話を聞いて、私は、


「なんですかそれぇぇぇぇ」


と突っ込みを入れるのだった。


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