第24話 冒険者向いてないかも……
「なっ、も、もう一匹ぃぃいいいい」
「はは、楽しくなってきたね」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるマツザカ。
「ど、どうするんですか! あのグリフォン、さっきユキさんが倒したヤツよりおっきいですよ!」
「あら、そう焦る必要もないんじゃなくて」
「ゆ、ユキさん」
「図体だけが大きくなったところで、所詮はグリフォン。私の相手ではありませんわ」
そう言って、再び私達の前に立つユキさん。
「ゆ、ユキさん! 危険です!! 今度こそ、私が!!」
いくらユキさんが強いからと言っても、万が一がある。
そう思い、ユキさんを止めようとした私だったが、
「ヒカリさん、お気持ちは嬉しいですが、あなたが来ても足手まといにしかならなくてよ。私も余計なケガはしたくないから、そこで豚に大人しく守られてなさい」
「ふぐっ……」
とユキさんから戦力外通告を受けてしまった。
「ははは、大丈夫。大丈夫。今回はたまたまヒカリさんの出番が回ってこなかっただけさ」
私の背中をポンッと叩くマツザカ。
こんな上半身裸でスカートを履いてる変態に慰められる日が来るなんて……。
なぜか、ユキさんに不要と言われたことよりもショックだった。
そんなやり取りをしているうちに、
「ビィィィィイイイイ」
空中でこちらを睨み付けていたグリフォンが、凄まじい早さで襲いかかってきた。
「さぁ、来なさい。ミンチにしてやりますわ」
ビシビシと鞭を地面に打ち付けるユキさん。
……どうせ直ぐに終わるんだろうな。
本当に何のために連れて来られたんだろ……。
私は、ユキさんとグリフォンを交互に見つめながら、そんなことを思っていると、グリフォンが突如、空中で軌道を変え、私目がけて突っ込んできた。
「え、ちょ、はぁぁぁああああ?!」
余りに突然の出来事に状況が飲み込めない私。
その間にも、私とグリフォンとの距離は近づいて行く。
「そ、そこはユキさんに突っ込むとこでしょぉぉぉぉおおおお!」
そんな言葉をあげ、しゃがみ込む。
すると、後方から、
「ヒカリさん! 危ない!!」
マツザカがそう叫びながら、私の前に立ち、見事な仁王立ちを披露した
そして、次の瞬間、
ドンッ
と大きな音と共に、グリフォンの巨大なクチバシがマツザカの肩に突き刺さった。
「あひぃぃぃぃいいいい、良い! 良い!!」
同じ人間のものとは思えない、気色の悪い声を出しながら、大量に出血するマツザカ。
「ま、マツザカさん!」
「ヒカリさん! 俺のことは良い、それより今がチャンスだ!!」
「ちゃ、チャンス!?」
「あぁ、このグリフォンは今、俺の三角筋にクチバシを掴まれ、身動きが取れない状態だ! このスキにグリフォンにダメージを……、いやん、そこぉぉぉぉおおおお」
「な、なんですか、それ……」
にわかには信じられないが、グリフォンが不思議そうな顔で首を上下に動かしている辺り、本当のようだった。
「ひ、ヒカリさん、早く!! 俺がダメになっちゃぅぅうううう」
「変な声出さないで下さい! でも、今がチャンスなのは分かりました! 行きます!!」
そう言って、私はグリフォン目がけ、走り出した。
そして、
「たぁぁぁあああああ!」
グリフォンの顔目がけて剣を振った。
「ビィィィィイイイイ」
剣が左目に直撃し、マツザカから離れ、再び空中に戻ったグリフォン。
「や、やった! やりましたよ!!」
剣を掲げて、アピールする私。
しかし……、
「あ、あぁ……、ははは、凄いなぁ、ヒカリさんは!!」
「……、相変わらず面白い方ですわね」
なぜか二人の反応は微妙だった。
「え、ちょ、何ですか……、その反応……」
「ははは、何でもないさ」
明らかに何かをごまかそうとしているマツザカ。
「な、なんですか! その顔!? 言いたいことがあるなら言って下さいよ!」
「ふふ、それなら私が代わりに言って差し上げましょうか」
「ゆ、ユキ嬢……、その……」
「な、なんですか! 早く教えて下さい!!」
イマイチ反応の薄いマツザカを押しのけ、ユキさんに詰め寄った。
すると、ユキさんは、
「それでは、遠慮なく。ヒカリさん、あなた、せっかくグリフォンが地上に降りてきたというのに、翼を切らなくてどうするの?」
と笑顔で言い放った。
「え……」
……言われてみれば。
さっきの私の一撃で、グリフォンはこちらを警戒して、しばらくは降りてこない。
しかも、あのグリフォンはただでさえ警戒心が強い。
最悪、長期戦になる。
けど、私達は水も食料も持っていない……。
「あ、ああああああああああああああああ!」
事の重大さに気づき思わず、頭を抱えてしまった。
「ははは、そんなに気にすることないさ、で、ですよね、ユキ嬢」
「えぇ、あそこで終わってしまっていたら、味気なかったですもの」
慰めにもならない言葉をかける二人。
そんな二人の横で私は、
「私、やっぱり冒険者向いてないかも……」
そんなことを呟きながら、膝を抱えて泣いていた。
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