第23話 一体何が……

「さぁ、来なさい、ただ図体が大きいだけのチキンさん」


ビシビシと鞭を地面に叩き付けながら、飛びかかってくるグリフォンに笑みを浮かべているユキさん。


「だ、ダメ……、逃げて! ユキさん!!」


どうせ死刑になるくらいなら、ユキさんとグリフォンの前に立って、ユキさんの盾になろうと思ったが、間に合いそうになかった。

さようなら、私の人生……。

次生まれ変わるときは、可愛い子犬になって、餌を食べてるだけで皆に褒められる存在になろう……。

そんなことを考えながえら、ギュッと目を瞑った。

すると、直ぐに、


ドカーン


と何か大きなものが地面にぶつかった音と、


「ビィィィィイイイイ」


というグリフォンの悲鳴が聞こえてきた。


「へ……?」


一体何が……。

そう思い、静かに目を開けると、


「どうしたの? まだ動けるでしょう? ほら、ほら、ほら!!」


そんな言葉をかけながら、地面に叩き付けられたグリフォンの腹部に蹴りを入れているユキさんがいた。


「ほ、ホントに何が……」


「見ていなかったのかい?」


目の前の光景に、困惑していた私に、マツザカが突然話かけてきた。


「きゃっ、ま、マツザカさん!? もしかして、あなたがやったんですか?」


普段の奇行でついつい忘れてしまいそうになるが、マツザカは常人とはかけ離れた身体能力を持ったスーパー冒険者。

この人なら、私が目を瞑っていた一瞬でグリフォンを地面に叩き付けることくらいは出来そうだった。

しかし、マツザカは、私の言葉に、


「いいや、俺は何もやっていないよ」


と首を振った。


「そ、それじゃあ、ユキさんがやったってことですか!? どうやって?!」


「それは、もちろん、鞭でバチーンさ。ユキ嬢の一撃を食らったグリフォンの表情は実に素晴らしかったね。俺もあんな顔が出来るように、練習するとしよう」


「ム、鞭でって、そんなの信じられませんよ!」


「ははは、それなら目の前を見てみるといいさ」


「め、目の前?」


マツザカに促され、前を向くと、


「ぴ、ピィィィ……」


「この程度で、なに弱音を履いているの! 立ち上がりなさい!! そして、もっと私を楽しませない!! ほら、ほら、ほら!!」


「ぴ、ピィィィ!!」


体中に鞭を打たれ、血まみれになったグリフォンと、その横で返り血を浴びながらケラケラと笑っている悪魔のようなユキさんがいた。


「……う、嘘」


「ははは、言っただろ。ユキ嬢なら大丈夫だと。ユキ嬢は子供の頃から、武術の稽古も受けていたからね。有象無象の魔物が相手では、手も足も出ないさ」


自信満々の顔で、笑うマツザカ。


「そ、それならなおさらボディーガードなんて要らなかったじゃないですか! なんで私を連れてきたんですかぁ!!」


「そんなの、面白そうだからに決まっているでしょう?」


いつの間にか、私の隣に血まみれのユキさんが立っていた。


「キャア! い、いつからそこに?」


「ついさっきですわ。私の気配に気づかないなんて、まだまだ爪が甘いですわよ」


「は、はぁ……って、グリフォンは?!」


「それなら、あの通り、脈がなくなってしまいましたわ」


「なっ……」


再び前を向くと、さっきまで抵抗していたグリフォンがグッタリと項垂れて、動かなくなっていた。


「す、凄い……」


「おほほほ、でしょう? でしょう?」


口に手を当て、ゲラゲラと笑うユキさん。


「お疲れさまです。とりあえず、一段落ですかね」


そんなユキさんに、マツザカが真面目な顔で声をかける。


「えぇ、とりあえずは……」


マツザカの言葉に余裕そうな笑みを返すユキさん。

そして、またしても置いてけぼりの私。


「ふ、二人とも、何言ってるんですか……、終わったのならもう帰りましょうよ……。それでギルドに謎の大穴はグリフォンの巣だったと報告して……」


「あら、ヒカリさん。あなたはグリフォンに追われながらのクライミングをお好みで?!」


「は、はぁ? 嫌ですよ! そんなの! ま、まさか、まだ生きてるんですか?!」


ユキさんの言葉を聞き、慌ててグリフォンの方を向いたが、グリフォンはピクリとも動かなかった。


「ははは、そっちじゃないさ」


「そ、そっち?」


意味不明なことを口走るマツザカ。

すると、ユキさんが


「ふふ、ヒカリさん。あなたは魔物が一匹だけで卵を産めるとお思いで?」


と補足を入れてきた。


「いや、流石に私もそこまで常識外れじゃ……。え……、ま、まさか……」


ユキさんの言葉にピンと来てしまった私。

そして、恐る恐る上を向くと、


「………」


こちらを無言で見つめている別のグリフォンがいた。


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