第22話 ボディーガードなんですけどぉぉぉ

「な、なななななななななな、なあああああ!!」


私達の頭上でゆっくりと滑空するグリフォン。

すると次の瞬間、


「ピィィィィイイイイ」


と大きな声で、こちらを威嚇してきた。


「キャアアアアア」


グリフォンの不快な鳴き声に気圧され、耳を押さえながら、その場にへたり込む私。

しかし、そんな私とは対照的に、


「ふふふ」


「ははは」


ユキさんとマツザカは、余裕そうな表情で、お互いに笑い合っていた。

……もしかして、何か考えがあるのかな?

まさか!


「ゆ、ユキさん! 今です!! ドカーンとやっちゃってください!! いくらグリフォンといえど、ユキさんの魔法攻撃を受ければ、ただじゃすまないはずです!」


恐らく、二人はユキさんの魔法で、グリフォンを吹き飛ばそうとしているんだろう。

そう考えた私は、グリフォンの鳴き声が止んだタイミングで、ユキさんに話しかけ、直ぐに魔法を打ってもらえるよう、最速した。

しかし、私の考えと二人の考えは違ったようで……、


「あら、私はそれでも構いませんが……。クスッ、ヒカリさん、もしかしてあなたも私の魔法を味わいたくなったのかしら?」


とユキさんは小悪魔のような笑顔を見せた。


「な、なんで私まで巻き込む前提なんですか! 私はマツザカさん達みたいに頑丈じゃないんですから、小規模な魔法攻撃にしてくださいよ!!」


「あら、そう言うことでしたか。残念ですが、その要望は承諾しかねますわ」


「ど、どうして?!」


「どうしてって……、私が広範囲の魔法攻撃しか使えないからに決まっているでしょう?」


「は、はぁぁぁぁああああ?」


何それ……。

そんな人、見たことも聞いたこと無いんだけど……。


「え、う、嘘ですよね? だって、魔法を使う人って皆、最初はちょっとした規模の魔法から入るんじゃ……」


「ははは、嘘ではないさ」


横で私達の話を聞いていたマツザカが突如、話に入ってきた。


「ユキ嬢は昔から魔法の才能があってね。他の人が通るようなプロセスを全部無視して、最初から大規模な魔法の行使が可能だったんだ。そのせいで、小規模な魔法を展開する必要も、機会もなくてね。まぁ、俺はそっちの方が嬉しいんだがね! がはははは!!」


「なっ……」


思わず絶句した。

そんな人間が存在するだなんて……。


「ふふ、信じられないといったお顔ですわね。素晴らしいですわ、その表情!! もっと、もっと私に敬意を払いなさい! おほほほほほ」


いつもの高笑いを浮かべるユキさん。


「は、はぁ……。って、笑ってる場合じゃないですよ! どうするんですか?! これ!! このままじゃあ私達、全滅しちゃいます!!」


「ははは、そんなに心配する必要はないさ」


腰に手を当て、元気に笑うマツザカ。


「ふふ、そうですよ、ヒカリさん」


そして、クスリと微笑むユキさん。


「へ? 二人とも、さっきから何言って……」


「はっはっはっ、これでドラゴンでも出てくれば全滅もありえただろうが、グリフォンだからね」


「全く、拍子抜けですわ。これでは、わざわざボディーガードを付けてきた意味がありませんもの」


「はは、仰る通りですね。……ここは俺が行きましょうか?」


「いえ、私が。豚、あなたはあの子を守っていなさい。放っておくとまた何かやらかしますわよ」


「了解。では、お気を付けて」


「えぇ」


そう言って、何やら分かりきった様子の二人。


「え……、ちょ、二人共、置いていかないでくださいよ!!」


そして、完全に蚊帳外の私。


「はは、すまない。いまからユキ嬢がグリフォンをやるそうだから、我々は下がることにしよう」


「え……、はぁ!? 冗談ですよね?」


「ふふ、冗談なわけないでしょう。ヒカリさん、危ないから、あなたは豚の後ろに隠れていなさい」


そう言って、空中で様子を伺っているグリフォンの前に立つ、ユキさん。


「あ、危ないからって、わ、私、あなたのボディーガードなんですけどぉぉぉ」


そして、とうとうここに来た意味を失った私。


「ははははは、愉快、愉快」


そんな私達を見て、マツザカは笑っていた。


「ま、マツザカさん! 笑っている場合じゃないですよ!! 今すぐユキさんを止めないと!」


「待ちたまえ、ヒカリさん」


マツザカが、ユキさんの元へ走り出そうとした私の肩をぎゅっと掴んだ。


「は、離して下さい!! このままじゃユキさんが死んじゃいます! そしたら私、死刑になっちゃうんですよ!! それだけじゃないです、見殺しにしたマツザカさんだって責任を取らされるんですよ!!」


私はマツザカの手を払いのけ、必死に詰め寄った。

そんな私にマツザカは、


「もう少し仲間を信用したまえ、ヒカリさん。それとも、俺の言っていることがそんなに信用出来ないかい?」


穏やかな表情でそう言い、私の肩にポンと手を置いた。


「ま、マツザカさん……」


そんなマツザカに私は、


「当たり前じゃないですか、日頃の行動を振り返って下さい。普段、あんなバカみたいな行動ばかり取ってる人の言葉を信用すると思ってるんですか? もし本気でそう思っているなら、一度お医者さんに頭の中を見てもらった方が良いですよ」


と返し、肩に置かれた手を再び振り払った。


「ブハッ」


『そうですね、マツザカさんを信じます』とでも言われるのと思っていたのか、その場で悶えながら崩れ落ちるマツザカ。

そんな下らないやり取りをしているうちに、


「ピィィィィイイイイ」


空中でこちらを睨み付けていたグリフォンが、ユキさん目がけて飛びかかってきた。


「あ、危ない!!」


慌ててユキさんの元へ駆け寄ろうとしたが、間に合いそうになかった。

しかし、ユキさんはそんな状況でも、決して怯えることなく、


「ふふっ」


と笑っていた。

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