第21話 早く逃げないと……
ヒュゥゥゥゥゥウ
「ぎゃああああああああああああ」
風を切る音と共に、マツザカに抱きかかえられながら、垂直落下する私。
そして、スカートを抑えながら「ちょと恥ずかしいね」と嗚咽が漏れ出そうなセリフを吐いているマツザカ。
その後ろで、
「あははははは」
となぜか大爆笑しているユキさん。
この訳の分からない光景が空中で数秒間続いたあと、
ドンッ
と大きな音を鳴らしながら、真っ暗な穴の底に到着した。
同時に、
バキッ…
と何かが割れる音と共に、水のようなものが辺りに飛び散った。
「うぇ、なんですか、これ」
「あら、何かしらね。おい、犬」
「ワン」
黒服達がユキさんの声に反応し、一斉にランプを付けた。
すると、
「な、なななななにこれぇぇぇぇ」
私2人分はあるであろう大きな白い塊が視界に入った。
「ふむ、これは……」
コツコツと白い物体を叩いた後、下を向き、腕を組みながら考え込むマツザカ。
そして数秒後、
「この音……、もしや……」
マツザカは顔を上げ、何かを閃いたような顔を浮かべた。
「わ、分かったんですか?」
「恐らくね。これは魔物の卵だろう」
「た、卵!? これが?」
「ああ、しかも変異種の卵だろうね」
「あら、そこまで分かるんですの?」
私達の話に割って入るユキさん。
「ええ、卵を叩いた時の反響の仕方が、普通のそれとは違いましたから。まぁ、ただ大きいだけと言われればそれまでなので、断言は出来ませんがね」
今、さらっと凄いことを言った気がする。
本当に、この人は変なところで有能な人なんだから……。
音の反響の仕方について、色々と詳しく聞きたかったが、今はそれより重要なことがあった。
「ちょっと待って下さい! マツザカさんの話が本当なら、私達が落ちてきた時に飛び散ったのって……」
「それも卵の一つだろうね」
「なっ……」
まずい、まずい、まずい……。
幸い、卵を産んだ魔物は戻ってきてないけど、もし戻ってきたら……。
「ど、どどどどうしましょう早く逃げないと! こんな大きさの卵を産む魔物と戦闘だなんて……、絶対無理ですよ!」
「あら、せっかく来たのに。もう帰ってしまうの」
「ははは、非常に口惜しいですがね。敵の戦力が不明な以上、ヒカリさんの意見も一理あるかと。一度地上に戻って、対策を考え直しましょう。それで無理そうなら、ギルドに相談ですかね」
珍しく、まともなことを言うマツザカ。
そんなマツザカの様子を見て、納得したのか、
「まぁ、不満はありますが、ここはあなた達の意見に従うとしましょう。ヒカリさん、帰りますわよ」
そう言って、人差し指で上を指すユキさん。
「あ……」
穴の中にいるのを忘れていた。
……しかも、マツザカに突然抱えられたせいで、緊急連絡用のアイテムが入った鞄は地上に置いたままになっている。
落下する時はマツザカの頑丈さで何とかなったけど……これは……。
「ま、マツザカさん、空とか飛べたりしませんか?」
「ははは、ヒカリさんは面白いことを聞くね。無理に決まっているだろう?」
「で、ですよねー……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ、こんな所で死にたくないぃぃぃぃいいいい」
「ふふ、クスクス」
こんな状況にもかかわらず、私を見て、余裕の笑みを浮かべるユキさん。
「ゆ、ユキさん?」
「あら、すみません。あなたの様子があまりにおかしくて。本当に面白い方ですわね」
「ああ、ヒカリさんはやっぱり最高だ!」
そして、なぜかグッと親指を上げるマツザカ。
「ふ、ふたりとも、なんでそんなに余裕なんですか……。例え魔物が来なかったとしても、このままじゃあ私達、ここから出られないまま死んじゃうんですよ……」
私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「はは、安心したまえ。ユキ嬢がきちんと準備してくれているからね」
「へ?」
「ふふ、おい、犬」
「わん!」
ユキさんの言葉を聞き、鞄の中をあさり始める黒服。
そして、
「わおーーん」
と何かを口にくわえてきた。
「な、なんですかそれ……」
「これは私が持ってきた崖登りアイテムの一つで、名をハーケンと言います。これとハンマーを使って上までゴーですわ!」
なぜかテンション高めのユキさん。
「は、はぁ……、って崖登り?!」
「ええ、楽しそうじゃありませんか?」
「ぜ、全然ですよ! そんな危険なこと、私は嫌です!」
「あら、それじゃあ、あなたはここに残るのかしら?」
「そ、それは……うぅ……」
「ふふ、決まりですわね。あなたもそれでいいですか? 豚」
「……え、えぇ」
煮え切らない返事をしながら、上を見つめているマツザカ。
「あら、どうしたのかしら……、あら、あらあらあら」
そして、突然ニヤニヤし始めるユキさん。
「え? ちょ、2人どうしたんですか?」
「ふふ、残念ながらお見えになったみたいですよ。ヒカリさん」
そう言って、上を向くユキさん。
まさか……。
恐る恐る上を向くとそこには、
「な、なななななななななな、なあああああ!!」
巨大なグリフォンがいた。
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