第20話 変な誤解されてます!

「あははははははは、何てみずぼらしい格好をしているの、豚!」


私が連れ帰ったマツザカを見て、爆笑するユキさん。


「ははは、ヒカリさんが渡してくれたんですよ! 似合っているでしょう?」


「あら、ヒカリさん。もしかして、そういった趣味をお持ちで?」


「ち、違いますよ! 持っていた予備の服がこれしか無かったんです!」


「ふふ、大穴探索だというのに、スカートを持ってくるだなんて。やっぱり面白い人ね」


「うぅ……、自分ではズボンを入れたつもりだったんですよ……」


そう、私がズボンだと思って裸のマツザカに手渡した服はスカートだった。

しかも、こんな時に限って上は持ってきていなかった。

その結果、今のマツザカは筋肉ムキムキの上半身を晒しながら、私のパツパツの赤いスカートを履いているという完全に頭のおかしな生命体に成り果ててしまっていた。


「あらあら、そうだったんですね。でも、ぷふっ……、そのおかげで豚の無様な醜態を見ることが出来たんですから、良かったじゃないですか」


マツザカの姿を見るたび、吹出しそうになっているユキさん。


「よ、良くないですよ! マツザカさんのこんな姿、誰が見たいんですか!」


「あら、私は最高のエンターテインメントだと思いましたよ。あなたもそう思うでしょ、豚!」


「ああ、この格好で町に出ればきっと、皆の人気者になれるだろうね」


まんざらでもない顔で、悪魔のようなことを言い出すマツザカ。


「や、止めて下さいよ! そんなことしたら、レイカさんがストレスで倒れちゃいます! その格好で絶対に人前に出ないで下さいよ!」


「ふむ、それなら直ぐに、この場を離れなければならないな」


顎に手を当て、真剣な表情をするマツザカ。


「へ? な、なんでですか?」


「ははは、あれほどの爆発音だ。この森で別のクエストを遂行している人達が集まって来てもおかしくはないだろう?」


「え? 他の人達って……」


「ん? 聞いていなかったのかい? 今日は我々の他に、三つのパーティーがこの森に入っているそうだよ」


「ちょ、は、はぁぁぁぁぁあああああ?」


初耳なんですけど……。


「な、それなら早く行かないと……」


「おい、お前達、大丈夫か?! 何だ今の爆発音は!」


「あ」


最悪のタイミングで、別のパーティーのメンバーであろう男性二人が現れた。

数秒間、見つめ合う私達。

すると、


「な、なななななななな何だ! この化け物はぁぁぁぁああああ!!」


男達はマツザカを指さし、そう叫んだ。

そして、男の一人が、


「さては、幻覚の類いを使う魔物だな! だが、生憎爪が甘かったようだな。こんな気持ちの悪い人間が存在するわけないだろ! 人間を侮辱するな!! 嬢ちゃん達、ちょっと待ってろ、今助けてやる!」


そう言って、マツザカに斬りかかろうとした。


「ちょ、ちょちょちょ、マツザカさん! どうするんですか、これ!! パーティー同士の争いは重罪なんですよ! このまま斬り合いになれば、私達、犯罪者になっちゃいます!!」


「ははは、落ち着きたまえ、ヒカリさん。こういう時にやることは一つだ。準備はいいかい、ユキ嬢」


「ええ、問題ありませんわ」


マツザカに笑顔でそう返すユキさん。


「え、2人とも何を……きゃっ」


突然マツザカが私を後ろ向きで抱きかかえた。


「ちょ、マツザカさん、どこ触って、臭い! 臭いです!!」


マツザカの体から放たれる、汚染されたドブのような悪臭に耐えきれず、暴れる私。


「ははは、ヒカリさん。俺を殴ってくれるのは嬉しいが、ケガだけはしないように注意してくれたまえ」


「はい? な、何言って……キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


私の言葉を遮るように、走り出すマツザカ。


「あははははははは、楽しいですわ!」


その後を、黒服にまたがりながら追いかけてくるユキさん。


「ぎゃああああああああああああ」


その間で、悲鳴を上げる私。


その光景を見て、はるか後方の男達が、


「魔物が人間をさらった」


と騒いでいる。


「ちょ、ま、マツザカさん! どうするんですかこれ! 変な誤解されちゃってますよ!!」


「ははは、なぁに問題ない! きっとレイカちゃんが何とかしてくれるさ!」


「あははははははは、またレイカさんが、ストレスでやつれてしまいますわね! 今度お会いする時が楽しみですわ~!」


悪魔のような言葉を発する二人。

……レイカさんごめんなさい、二人の暴走を止められませんでした。

心の中で目一杯の謝罪の言葉を述べながら、私は手を合わせた。

すると、マツザカはそんな私を見て、


「ははは、大丈夫だよ。死にはしないさ」


と意味不明なことを口走った。


「は、はい? なに言って……」


ツンツン


ユキさんが、さっきまで黒服を叩いていた鞭の先端で、私の腕をつついた。


「ユキさん、どうかされたんですか?」


「ヒカリさん、前ですわ」


「まえ?」


ユキさんの言葉を受け、前を向くとそこには、

さっき私が偵察した大穴があった。

にも関わらず、マツザカは減速せず走り続けている。

つまり……。


「ま、マツザカさん、あなたまさか!!」


「ははは、歯を食いしばりたまえ、ヒカリさん!! ひゃほおおおおおおおおおおお」


マツザカは私にそう言い、何の躊躇いなく、笑顔で大穴に飛び込んだ。


「さぁ、私達も行きますわよ!!」


直後、そんな声をあげながら満面の笑みで大穴に飛び込んだユキさん。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」


そんな2人とは正反対に私は泣きながら大穴に落ちていくのだった。


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