第5話 頑張ってみます!

「インターンか。まぁ、悪くないんじゃないか?」


―マツザカから、インターンの誘いを受けて2日

マツザカの提案に答えが出せなかった私は、急遽、カフェでレイカさんに話を聞いて貰うことにした。


「悪くない……ですかね……」


「何だ? 不満そうじゃないか」


「それは……」


「まぁ、気持ちは分からんでもないな」


そう言ってコーヒーをすするレイカさん。


「MMTはマツザカ含め、頭のおかしい連中しかいない魔境だからな。嫌悪感があって当然だ」


「で、ですよね!!」


「だが」


レイカさんが私の言葉を遮るように声をあげる。


「これがお前にとって最後のチャンスなのも事実だ。これを逃せば、二度と冒険者にはなれないぞ」


「それは……」


それは分かっていた。

だけど、あそこで働いて、正気を保っていられる自信が私には無かった。

心の中にあるモヤモヤとした気持ちを上手く言葉で表せず、黙り込んでしまう私。

そんな私を見て、レイカさんは、


「不安か?」


と、私に優しく笑いかけた。


「そう……、ですね。これから上手くやっていけるかとか、色々と不安です」


「そうか。それに関してはお前次第だな。外野の私がとやかく言える立場じゃ無い。ただ、一つ言わせて貰うと、私は、お前とあのパーティーの相性は結構良いと思ってる」


「え? そうですか??」


自分では、あのパーティーとの相性は最悪だと思っていた。

だから、レイカさんの言葉はかなり意外だった。


「あぁ。あいつの話をするときのお前はなんだか楽しそうだし、最初にあった時よりも、少し明るくなった気がするからな」


「それは……、まぁ」


確かに、ぶっ飛んだ日常ではあるが、前のパーティーよりは居心地が良かった。

以前は、色んなものを背負いすぎて、苦しいだけの日々だったからなぁ。


「ま、どちらにせよ、お前が抱えてる不安を解消するには、実際に体験するのが一番だ。嫌になったら辞めて良いわけだし、まずは1ヶ月だけでも頑張ってみたらどうだ?」


「1ヶ月ですか。良いですね、それ。少し頑張ってみることにします」


「おう、頑張れ」


「すみません、レイカさん。ありがとうございました」


「いや、気にするな。あいつからうちに求人が来なくなるだけで私としては嬉しいんだ」


そう言って、ため息を付くレイカさん。


「レイカさんも苦労されてるんですね」


「主にあいつのせいでな。上も上だ。あいつと関わりたく無いからって、全部私に押しつけやがって。何時か絶対引きずり下ろしてやる」


「あはは……」


レイカさんは、ギルドでクエストの受注や、パーティーへのクエスト紹介などを行なっている。

そのため、普段は色んなパーティーと交流を持っており、特に専属などはないらしい。

しかし、レイカさんの上司がMMTと関わりたくないがために、MMTへの依頼は全て、部署内で一番若いレイカさん経由になっており、レイカさんは、ほぼ、MMT専属の連絡係になっていた。

それを良いことに最近は、MMTからギルドへの求人掲載なども引き受けることになっているらしい。

大変だなぁ、レイカさんも。


「そう言えば先日も、あいつのとこに依頼を出せと命令されてな。ホレ」


レイカさんが、鞄から一枚の紙を取り出す。


「えっと……、オストリッチの群れを討伐ですか。難しそうなクエストですね」


オストリッチは、優れた身体能力と驚異的な回復力を持った魔物。

普段は、町から離れた荒野に暮らし、餌を求めて地上を爆走しているのだが、先日、数十匹ほどの群れが、偶然町の周辺に迷い込んでしまい、そのまま住み着いたため、討伐して欲しいとのことだ。


「まぁ、難易度はそこそこだな。ただ、如何せん報酬が渋すぎてな。まともなとこだと引き受けてくれないんだ」


そう言って、レイカさんが報酬と書かれている欄を指さした。

私もつられて目を通す。

するとそこには、


「これ……、相場の半分くらいですよね」


信じられないくらい低い額が記載されていた。


「あぁ、だが、個人からの依頼なんてこんなものだ」


「でも、これ、ギルドへの仲介料を引くと殆ど手元に残らないんじゃ……」


「だな。引き受けるだけ損な爆弾クエストだ」


「マツザカさんは普段からこんな感じのクエストを引き受けてるんですか」


「そうだな。大半は何処にも受注先の無いゴミのようなクエストだ」


「マツザカさんはなんでそんなクエストを……」


「さぁな。あいつのことだから、パーティーの財政が厳しい方が嬉しいんじゃないか?」


「……、ありえそうで困ります」


以前、ウルフのクエストに同行した時にも、クエスト完了の届けを出した後に、「自由な時間が無くて、追い込まれる方が好き」と言って、深夜にもかかわらず、次のクエストに向かって行った頭のおかしい人だ。

もしかしたら、引き受けられるクエストは全部引き受けるのかも知れない。


「まぁ、理由はどうでもいいとして、私はこのゴミを処分するため、休日なのに、あいつの所にいかなきゃならんわけだ」


「あ、それなら私が持って行きましょうか?」


「いいのか?」


「はい、相談に乗って頂いたお礼です」


「すまない、助かる。受注承諾書も渡しておくから、あいつの許可が降り次第、受付に提出しておいてくれ」


そう言って、レイカさんが、鞄から受注承諾書と書かれた紙を出し、私に手渡してくる。


「了解しました。レイカさんもお仕事頑張って下さい」


「ああ、お互い頑張ろうな」


そんな言葉を残して、レイカさんは店を後にした。

私もレイカさんを見送った後、直ぐに店を出て、MMTの本部を目指した。

そして、


「こんにちはー、ハルキさーん、いらっしゃいますか?」


そう言って、MMT本部と書かれたドアをノックした。

いつもなら、地獄耳のハルキが直ぐに出てきてくれるのだが、生憎、不在のようだった。


「クエストに出てるのかな? 誰かいませんかー」


中に聞こえるよう、大きな声を出して、ドアをノックする。

すると、しばらくしてガチャっと扉が空いた。


「マツザカさん、いらっしゃったんですか。それなら早く出て……」


「早く出て下さい」そう言いかけたところで、私は言葉に詰まった。

なぜなら、目の前にいたのはマツザカでは無く……


「な、ななな、何者ですか!! あなたぁぁぁぁああああああ」


長身で、強面、おまけに肌の黒いガチムチのマッチョだった。


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