第4話 君臨! どS嬢

マツザカとクエストに参加してから数日、


「こんにちは! ヒカリさん。先日の報酬を渡したいので、至急、本部まで来て欲しい!!」


レイカさんを通じて、そんな手紙を受け取った私は、再びマツザカの元を訪れた。


コンコンッ


「バーティMMT 本部」と書かれた扉をノックする。


すると、


「はーい、どうぞ」


マツザカとは違う、別人の声が聞こえてきた。


そして、


「お待たせしました。えっと、クエストのご依頼でしょうか?」


中から、まだ若い爽やかな茶髪の男性が出てきた。


「あっ、えっと、すみません。クエストの依頼とかではなくて、マツザカさんに用があって来ました」


「リーダーにですか?」


男が、不思議そうに首を傾げた。


「あー、えっと、ウルフ討伐の報酬を受け取りに来て欲しいって手紙をマツザカさんに貰ったんですけど」


「ウルフ……、あー! もしかして、先日リーダーが勝手に受注したクエストに同行して下さった、ヒカリさんですか?」


「あっ、はい!」


「なるほど、了解しました。ただいま、ご案内しますね」


そう言って、男は私を本部の中へと案内した。

中に入ると、狭い玄関の先に3つのドアがあり、左側には「応接室」と書かれた、以前マツザカと面接をした部屋があった。

またこの部屋に入るのかな? と思ったが、マツザカがいるのは別の部屋のようで、男は正面にあったドアの中に入っていった。

男の後を追い、中に入ると、茶色い床の上にいくつかの机と植物が置かれている、事務室のような部屋が広がっていた。


―そして、少し奥に行くとそこには、


「マツザカ 愛の巣」という気色の悪い標識の掛かったドアがあった。


「ここですね。ちょっと待ってて下さい」


コンコンッ


男が部屋をノックしたが、何も反応が無かった。


「はぁ、全くあの人は……」


男がため息を付く。

そして、


「リーダー、入りますよ」


そう言って、ドアを開けた。

するとそこには、


「いきますよ? 豚さん!!」


「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


上半身裸で目隠しをしながら、ぶひぶひ鳴いているマツザカと、鞭を大きく振りかざした銀髪の女性がいた。


「うわぁ……気持ち悪っ……」


その光景にドン引きした私は、思わずそう呟いた。

するとマツザカは、


「む? その声は……ヒカリさん!!」


と言いながら、こちらに転がってきた。


「ちょっ、こっちに来ないで下さい!」


マツザカの常軌を逸した行動に思わず、後退った。

すると、


「何やってるんですか……リーダー」


男が呆れた顔でそう呟き、転がってくるマツザカを足で受け止めた。


「むむ、このよく磨かれた高そうな靴の感触! ハルキ君も一緒だったか!!」


「そうですよ」


ハルキがマツザカから足を離す。

同時に、マツザカが立ち上がり、


「いやぁ、すまない。久しぶりにユキ嬢と会えたからね。盛り上がってしまって」


目隠しと耳栓のようなものを外しながら、そう言った。


「はぁ……。っていうか、取り込み中ならノックした時にそう言って下さいよ。お客さん通しちゃったじゃないですか」


「おおっと、それは済まなかった。耳栓をしていてね。何も聞こえなかったんだ」


「耳栓ですか? でも、ヒカリさんの声は聞こえていたじゃないですか」


「ふははは、昔から、他人が俺を罵倒する声だけには敏感でね。嫌でも聞こえてしまうのさ」


「何ですか、それ?」


呆れた表情でマツザカを見るハルキ。

私は横で2人の話を聞いているだけだったが、それだけでも、頭がおかしくなりそうだった。

……帰りたい。

私はここに来たことを酷く後悔した。

すると、そんな私の様子を察したのか、マツザカは私の方に視線を向け、


「やぁ、ヒカリさん。今日も良い目をしているね!」


そう言い、グッと親指を上げた。


「は、はぁ。そうなんですか……」


「あぁ、そのゴミを見るような目、素晴らしいよ。やはり君はこのパーティーにピッタリだ。どうだい? 俺のパーティーに来る気になってくれたかい?」


「それは……」


正直、迷っていた。

先日のクエストを通じて、マツザカに実力があることは分かったし、パーティーの実績も申し分ない。

これ以上の優良物件に出会えるのは、恐らく、これが最後だ。

けど……。


私は言葉に詰まり、俯いてしまった。


部屋中に気まずい沈黙が流れる。


すると、


「ま、まぁ、焦る必要もないんじゃないですかね?」


ハルキが、重い口を開いた。


「ふむ、それもそうだね。ハルキ君もうちに来るまでは時間が掛かった。いやぁ、懐かしいなぁ。ハハハハハ」


両腕を腰に当て、大きな声で笑うマツザカ。

そんなマツザカを、


「いや、僕の場合、全部リーダーが悪いんですけどね」


呆れた様子で見るハルキ。


その気持ち凄い分かるなぁ……。

マツザカがまとも人だったら即決出来たのに……。

私はハルキの言葉にうんうんと頷いた。


「ヒカリさんも、ハルキ君と同意見か。なら、どうだね? しばらくうちのインターン生になってみるというのは」


「インターン……ですか?」


一応、単語だけは聞いたことがある。

確か、気になるパーティーに一定期間、就業体験が出来る制度だったはず。


「ああ、そうだ。もちろん給料は出すし、もし、ヒカリさんが合わないと感じたなら、その日から来ないで貰って構わない。変な規則に縛られるよりはよっぽど有意義だし、悪くない提案だと思わないかい?」


「それは……、そうですけど」


「ちょ、リーダー! またそうやって勝手に決めて。手続きするのは僕なんですよ」


「ははは、迷惑を掛けるな。ハルキ君」


「全く……」


頭を抑えるハルキ。

マツザカは、そんなハルキに笑いかけた後、私の側に近づき、


「まぁ、少し、考えてくれたまえ。その間に俺はクエストの報酬を持ってくるとしよう」


そう言って、私の肩をポンっと叩き、部屋を出て行った。


「……ハルキさん、何かすみません」


部屋に残された私は、ハルキに謝罪した。


「あ、いえ。気にしないで下さい。リーダーに振り回されるのは慣れてますから」


苦笑いを浮かべるハルキ。

優しいなぁ。

リーダーがあんな人だから、他のメンバーもおかしな人ばかりだと思ったけど、まともな人がいて良かった。

この人となら上手くやっていけそう。


「ねぇ、ちょっとよろしくて?」


「えっ? あ、はい!!」


そんなことを考えていると、突如、銀髪の女性が私に話しかけてきた。

さっき、私達が話している間、ずっとマツザカの隣で鞭を持ちながら、ニコニコと笑っていた人だ。

……マツザカの奥さんか何かだろうか?


ジー


「あっ、あの?」


銀髪の女性は、私の言葉に返答することなく、私の目を凝視し続けた。

私を見つめる透き通った海のような青い眼は、とても綺麗で、吸い込まれそうな感覚を覚えた。


「ねぇ、あなた」


「はい!」


ずっと黙っていた女性が、突然口を開いた。


「痛いのと苦しいの、どちらがお好きなの?」


「は?」


女性の意味不明な言動に、呆気に取られてしまった私は、そんな返事を返した。

……もしかして私、マツザカと同類だと思われてる?


「ちょっ、ちょっと待って下さい! 私をマツザカさんと一緒にしないで下さい!」


「俺がどうかしたのかい?」


「キャアアア」


声の方を振り返ると、そこには、報酬が入っていると思われる袋を手にしたマツザカがいた。


「ははは、まるで化け物でも見たようなリアクションじゃないか。一体どうしたんだね」


「ま、マツザカさん! あなたのせいで奥さんに変な誤解をされちゃったじゃないですか!」


「奥さん? はて、誰のことだい?」


首をかしげるマツザカ。


「えっ、じゃ、じゃあこの人は……?」


私は銀髪の女性を指さした。


「ああ、ユキ嬢のことかい。彼女はうちのメンバーだよ」


「えっ……、そうなんですか?」


「ふふ」


私の言葉を聞き、不敵な笑みを浮かべる女性。

すると、


「始めまして、ヒカリさん。私、ユキと申し上げます。以後、お見知りおきを」


そう言って、ぺこりとお辞儀した。


「は、はぁ」


なんだか不思議な人だな。

そう思っていると、女性は、


「ところで、マツザカ。いつ私が、彼女なんて呼び方を許可したのかしら?」


とマツザカに笑いかけながら、体に鞭を入れた。


「あひいいいいん」


体を打たれ、気持ち悪い声を出すマツザカ。

そんなマツザカを見て、


「あははははは、マツザカ。その顔、とってもいいですわよ」


ユキは甲高い笑い声を上げた。

そして、


「でも、悪いことをした豚には躾をしてあげないとですわね」


そう言って、マツザカを鞭でビシビシと叩き始めた。


「な、なんなんですか……。これ……」


あまりに浮世離れした光景に理解が追いつかなかった。


「えっと……、これはですね」


そんな私を見て、ハルキが話しかけてきた。


「僕もよく分からないんですけど、お互いのストレス発散みたいなもの、らしいです」


「ストレス発散、ですか……」


「はい、ユキ嬢はああ見えて、結構な名門家庭のご令嬢でして。窮屈な毎日に嫌気がさすとこうやって、リーダーを虐めに来るんです」


「はぁ……」


理解は出来なかったが、少なくとも、関わっちゃいけない世界であることは分かった。

……帰ろう。

鞭でビシビシと打たれているマツザカを見てそう決意した。


「マツザカさん、私もう帰るので報酬だけ貰って行きますね」


そう言って、私は床に落ちている袋を手に取った。


「アアン、あ、ああ、そう言えば、インターンはどうするんだ……、アアアア」


「改めて、ご連絡させて頂きます。それでは」


「そ、そうか。ではまた会おう、しょ、しょこぉぉおお」


「誰が人の言葉を喋って良いと言ったの!! このクソ野郎!!!」


「ぶひぃぃぃぃいいいい」


「あはははははははは」


嫌でも耳に入ってくる、聞きたくも無い会話を背にして、私は部屋を後にした。


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