第3話 何者なんですか……?

「マツザカさん!」


両腕を噛みつかれ、これでもかと言うほど、出血するマツザカ。

しかし、マツザカは何故か嬉しそうな顔をしながら、


「あぁ、良い。だが、不意打ちとは関心しないなぁ。遊んで欲しいなら堂々と正面から来て欲しいものだね」


と言い、両腕に噛み付いたウルフを地面に叩きつけた。

するとウルフは、「キャイン」という鳴き声とともにピクリとも動かなくなった。


「す、凄い……」


ウルフを武器も使わず仕留めるなんて……。

目の前で起きていることが信じられなかった。


「ヒカリさん、羨ましがるのは良いが、今は後ろだ」


「は、はぁ? 羨ましくなんてありませんよ! あなたと一緒にしないで、って、後ろ?」


振り向くと、2匹のウルフがこちらを威嚇していた。


「嘘っ! こっちにも!!」


「ふむ、ウルフは知能が高いと聞いていたが、これ程とは。お見事!」


そう言ってパチパチと拍手するマツザカ。


「か、関心してる場合じゃないですよ! 早くこっちに来て下さい!!」


「そうしたいところなんだが、生憎、こっちも忙しくなりそうでね」


「は? 何言って……」


視線をマツザカの方に向けた次の瞬間、茂みの中から4匹のウルフが飛び出し、マツザカに襲いかかった。


「ま、マツザカさん!」


「アアン!! こっちは大丈夫だ! それより、今は正面のウルフに集中したまえ」


「は、はい!」


私がマツザカに返事をしたと同時に、左右から2匹のウルフが襲いかかって来た。


「っ、とりあえず一匹ずつ! たぁぁぁぁ!!」


そんな声を上げ、大きく剣を振り回す。

すると、


「キャイン」


剣が先に飛び出してきたウルフの眉間に当たり、ウルフを倒すことに成功した。


「まずは一匹、次は!」


前を向くともう1匹のウルフが大きく口を開けていた。


「間に合わない……。なら、これで!」


私は、左腕をウルフの前に突き出した。


そして、


ガッキーン


という重厚音と共に、ウルフが私の籠手に噛み付いた。


「痛ぁぁ!!」


マツザカと違って、重装備をしているから大丈夫だと思い込んでいたが、左腕に痛みが走った。


「でも、チャンス!!」


篭手に噛み付いているウルフに剣を突き刺す。

すると、


「キャン」


と断末魔を上げ、ウルフは血を流しながら倒れた。


「な、何とかなった……。けどっ」


ウルフ噛まれた左腕を動かすたび、激痛が走る。

篭手を見ると、噛まれた部分にくっきりと歯型が残っていた。


「結構高い装備だったのに……」


これを裸で受け止めているマツガサは本当に人間なんだろうか……?


「って、マツザカさん! 助けなきゃ!!」


「俺がどうかしたのかい?」


ポンッとマツザカが、私の肩に手を置く。


「キャッ! ま、マツザカさん?!怪我は? 大丈夫なんですか??」


振り返りマツザカの方を見ると、体には傷跡が1つも残っていなかった。


「え、嘘……。何で……?」


「ハッハッハッ、ここに来る前に応急魔法を三重にかけていたからね。あの程度の傷くらい、直ぐに完治するよ」


そう言って、マツザカは自分の肉体美を見せつけるかのように、決めポーズを取った。


「さ、三重って……。冗談ですよね?」


「冗談ではないさ! なぁに、これくらい練習すればヒカリさんも直ぐに出来るようになるよ!」


「なっ……」


正直、この人の言っていることが信じられなかった。

魔法の重ねがけは、その道を極めた人間ですら扱うのが難しい極限の技術。

そのため、魔法を二重に重ねがけ出来るだけでも、学会から引っ張りだこになるレベルだ。

三重の重ねがけなんてもってのほか。

そんな事が出来る人間が存在するなんて聞いたこともない。


なのに、この人は……。


「……、聞きたいことは色々とありますが、とにかく無事で良かったです。とりあえず、村まで戻りましょう」


「……なぜだい?」


「なぜって、このまま進んで行けば、またいつ襲われるか分からないからですよ! 一旦近くの村まで戻って作戦を考えましょう」


「なるほど、確かに君の言う通りだ。だが、安心したまえ。これくらい倒せばもう奴らも手だしはしてこないさ」


マツザカが奥の方を指さす。


「……確かに、私とマツザカさんの戦果を合わせれば5体くらいは倒せたと思いますが、それだけでは……」


そう言いかけた時だった。


「えっ、何……これ?」


どっさりと積まれたウルフの死体の山が目に入ったのは。


「いやぁ、どうやら俺はウルフにモテる体質みたいでね。沢山いたぶって貰えたよ」


「嘘……、信じられない……」


パッと見るだけでも30体以上の死体がある。

それをこんな短時間で……。


「いゃあ、この子達の噛みつきはとても良かったね。癖になりそうだよ」


そう言って、マツザカは身悶える。

そんなマツザカを見て、私は


「マツザカさん、あなた何者何ですか」


思わず、質問を投げた。

すると、マツザカは


「俺か? 俺は痛めつけられることが大好きな、時代の最先端を行く紳士さ」


と馬鹿みたいな返答をするのだった。


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