第8話
さて、話は戻り。
何を逃れたトトラックは改めて液体酵母に向き合った。
何処からともなく
酵母瓶、その隣には本当にいつの間に取り出したのか、紫の液体が入った瓶が一本。新しく用意されたぶどうジュースだ。
早速、ぶどうジュースに酵母を入れてワインを造る気らしい。
そんなトトラックを前にマコトは慌てたように手で制した。
「一ついいか?」
「はい、何でしょうマコト君」
「ソレ……。どれぐらい入れるんだ?」
邪魔されたので、一瞬無気力な顔に不機嫌な色を帯びたが、その言葉に彼女の表情は直ぐに元に戻る。
口元に指を伸ばし、「ああ」とポツリ。
「それは、あれね。この一本の瓶に対して酵母をどれだけ入れれば良いのか、ということよね?」
マコトは大きく頷いた。
頷いて瓶に視線を戻す。
この手作り酵母を使って、減った酵母を補いながらワインを造る。――コレは良い。
問題はどれぐらいの酵母を中に入れれば、良いか。――この問題が浮上する。
トトラックは悩むように視線を上げた。
「そうねぇ、本で見た限りだと、大体一ℓ当たり一gのイーストを入れていたわね。でもあの本の酵母はドライイーストだったし……」
腕を組んで、綺麗な顔を悩まし気に寄せたまま唸る。
「1ℓ、1g……100ml、0.1gって事になるのかしら……?じゃあ、この瓶は大体500mlだから、0.5……?」
もごもご悩み始めた彼女の代わりに、簡単に説明しよう。
皆は理科の授業の時、例えば食塩水を作る時。「塩を5g」という説明を見たことは無いだろうか。
アレは「水が100mlの時、入れる塩は5g」と言う表しだ。
100mlを基準として、入れる分量が記されている。
ここで、水の量が変更したなら。後者の物質の必要量は当たり前に変化する。
例えば「300mlの食塩水を作る」こう記されていた時は、入れる塩の量を変えなくてはいけないと言う事。
因みに、其処まで難しくない。
この場合は簡単。300は100の3倍だから、同じように3を掛ければいい。
5に3を掛けて入れる塩は15gとなる。
詳しく書くと、ややこしく。
例えば、この水がちょっとばかし特殊なモノに成るが。そこは関係ないので割愛させてもらう
「でも、液体で手作りって言う不安定なものだしなぁ……」
この初歩的な問題の前に、トトラックは悩んでいるのだが。
マコトは顎をしゃくった。
「入れる量を変えつつ、いくつか作ったらどうだ?」
「――それだ!」
ナイス、マコト。トトラックは指を差した。
だったら次の問題。
「gをmlに直して使うとして……じゃあ、0.5mlから50mlのスポイトを用意するか……」
とりあえず、必要数が分からないので。トトラックは最大50gまで酵母を使う事にしたようだ。
「じゃあ、マコト君はこの酵母をかき混ぜといてくれる~」
トトラックはスプーンを取り出しながら言う。
なぜ自分が?とマコトは疑問に思ったが、文句が口から出る前にトトラックはそそくさとキャビネットの前へ。
執拗なスポイトを取り出し始めた。
この時、マコトはキャビネットの中を改めて見たのだが。
その中は正に学校の理科室であったと言う。
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