第6話


 「さて、じゃあ。何が問題か考えてみよう」

 

 一言漏らし、トトラックは机の上に三本の瓶を置いた。 

 マコトはコレを見る。ぱっと見確認するが、それは。


 一本目は完全腐敗の失敗作。

 二本目は白く濁った液体が入った瓶。

 三番目は紫色の透明な液体で、下に何か沈殿物が溜まった物だった。


 「これは?」

 「これは、失敗作を元に試作した二本となります」


 トトラックが胸を張って濁った瓶を手に取る。


 「見ての通り《発酵》が進み、《炭酸ガス》が発生した物よ。三本目はガスも抜けきって、ワインとなった物」

 「なんだ。もう、成功してるじゃないか」


 彼女の言葉でマコトが首を傾げるのも仕方が無い。

 だが、トトラックは小さく首を横に振った。


 「ズルをしましたから。完成とは言い切れないのですよ」

 「……ズル?」


 思わず問い直すと、彼女は今度は首を縦に振る。

 指を立てて一言。


 「魔法を使っちゃいました。促進魔法」

 

 マコトは更に首を傾げた。

 だからね、とトトラックは言う。


 「酵母菌の働きを魔法で促進させたの。時間魔法で時間操作もしたし、適温保持の為にも魔法を使ったわ。それから――」


 彼女の長い説明が始まった。

つまりだが、詳しく簡単に説明すると。

 トトラックは、この2本のワインを、魔法を使用して造り上げのだ。


 酵母菌の作用を良くするために、彼女は植物の生長を促す《促進魔法》を使用し酵母菌の働きを強め。

 同時に酵母菌の強度を強めて、ちょっと其処らじゃ死滅しない様に工夫した。

 更には気温を操る魔法を使って、保温機能を作り上げ。早くワインを造り上げるために時間操作も使用。

 結果、この2本のワインは出来上がったという訳だ。


 「ずるじゃ無いか」

 「ええ、だからズルって言ったじゃない。5日ぐらいで出来上がったわ」


 さらりと答えると、トトラックは三本目の瓶の中身をグラスに注ぎ、マコトに手渡した。

 芳醇なブドウの香りと、確かなアルコールの香り。

 恐る恐ると一口飲んでみたが。甘みが強いお酒の味がする。

 間違いない、これはワインだ。


 これにはマコトは首を傾げる。


 「――でも、やっぱり成功してるじゃないか」


 マコトからすれば、このワインは完成品だ。

 だが、トトラックは眉を顰めた。

 

 「ダメよ。言ったでしょ?ズルをしたって」

 「……魔法を使った事が、か?」


 トトラックは大きく頷き瓶を見る。


 「お酒と言うのはね、魔法なんて使わずとも先人たちが見つけ、培ってきて文化よ。魔法なんて手助けが無くても、手間暇かかろうが模索し続ければ必ず完成する」

 「つまりは、あんたは魔法無しで、自分の手だけで造りたいって事なのか」

 

 トトラックは大きく頷いた。

 今度は初めて、キラキラとした純粋な花が咲くような笑みを添えて。

 おもわずその愛らしさに、マコトがドキリと胸を高鳴らせる事となる。


 「それに、町で一度ワインを飲ませて貰ったけど。やっぱりあっちの方が美味しかったもの」


 自分の事でもないのに胸を張って、トトラックは言う。

 いつの間に取り出したのか、その手には別の小瓶。ぶどうジュースのラベルが張ってある。

 それを側にあったグラスに注いで、彼女は幸せそうに飲み干した。


 「ただ、このジュースちょっと魔法が掛かっているのよね?」


 ぺろりと舌なめずりをしながらトトラックが言う。

 なに?とマコトが瓶を手に取り、同じように飲む。


 「いや、分からないが」

 勿論マコトには分からなかったが。

 トトラックは言った。


 「魔法と言っても微かよ?私じゃないから、お店の店主が掛けたんでしょうね」


 まじまじグラスを見つめながらトトラックが言う。

 先ほどの魔法使いたくない宣言は何処へ行った。気が付いていたのなら、何故魔法が掛かったジュースを使ったのか。


 「どんな魔法なんだ?」

 とりあえず疑問は押し殺して聞いてみる。

 トトラックは指を口元に立てて考えた。

 

 「簡単に防腐魔法の一種……。私が教えた物ね。――確か、発酵を遅くするものだったかしら?」

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