第4話



 改めて、アルコール発酵についてもう少し詳しく教えましょう。

 アルコール発酵とは微生物の一つである「酵母菌」が作用して起る《発酵》です。

 《酵母》とはすなわち《イースト》。

 お酒だけでなくパンを作る時にも使用する菌です。


 さて、この酵母ですが働きとすれば

 糖類をエネルギーに《アルコール》と《炭酸ガス》を作り上げる事が出来ます。

 先に申しました通り、糖類を分解して《アルコール》と《炭酸ガス》に作り上げると言う事ですね。


 この《発酵》が終わる頃には《炭酸ガス》は抜け、残り出来上がるのが《アルコール》。《お酒》と言う事となるのです。

 つまり甘味の成分からこの二つを造る事が出来ると言う、文字に起こせば実に簡単な《発酵》です。

 ちなみに《炭酸ガス》を抜かなければ、《スパークリングワイン》になります。

 

 さらに特徴を上げますと。

 普通の発酵では、殆どは酸素が無ければ微生物は動かないのですが。

 この《酵母菌》は別。一部を除いて酸素が無くても《発酵》をしてくれる菌となるのです。


    ◇


 「わかった?」

 「――つまり砂糖と酵母菌が有れば、造れると?」

 「馬鹿ですね。原理的に言えば造れそうですが、ソレが出来ないのが《発酵》なのですよ」


 トトラックは何処から用意したのか、黒板を杖で叩きながら言った。

 彼女の説明……分かりやすかったが、流石に腹が立つ。

 マコトの反応は気に置止めず。トトラックは、手に持つ作成中ワインの瓶を机の上に置いた。


 「それで、何だけど。この世界での、ワイン作りの材料は至って簡単。二つ策が有ります」

 「……それは?」

 「1つはブドウを用意してから造る事。そして、2つが市販のぶどうジュースから造る事です」


 胸を張って、トトラックは答える。

 これに苛立ちながらも首を傾げたのはマコトだ。


 「まて、そのブドウの糖類を利用するんだろ?」

 「お、マコト君凄い、正解です」

 「……じゃあ、酵母菌は何処から持ってくるんだよ」


 ――実にもっともな問いかけだ。

 だが、トトラックは小さく笑った。

 すこしの間をおいて、彼女は口を開く。


 「酵母菌とは、主に穀物や果実に付着する菌なのです」

 「――ああ、なるほど」


 皆まで言わずとも分かった。

 穀物、に付着している菌。

 トトラックも大きく頷く。


 「そう、元からブドウの皮には《酵母菌》が付いているの。コレを利用して、ワインを造るのよ」


 なるほど、納得。マコトも頷く。

 トトラックは手前の瓶を持ち上げて言うのだ。


 「だから、手始め。最初と言う事で、今は市販のぶどうジュースを使用してワインを造っているのです」

 

 これにはマコトも更に納得がいった。

 納得して、腕を組んで、何度も頷いて。

 死んだ魚の眼で、ギロリ。


 「つまり、5日間俺が嘔吐と下痢で苦しんだのは、それが原因と言う事ね」

 「……」


 トトラックはそっと目を逸らした。

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