第二十四話 新メンバー
「ユーリ。俺とアイゼンと一緒に、王都のギルドに移らないか?」
王都へ行く。それは、僕の当面の目的でありながら、二人だけではまだ叶わないと思っていた目標だ。
バレルグリズリーという強敵を倒せたことで、少しは成長できていると信じたいが、あれは謎の龍の力によってもたらされた勝利だった。まだ冒険者になって一月ほどのひよっこである僕では、王都までの道のりは長すぎる。
だが、経験豊富な斥候である、ユーリ師匠が一緒に来てくれるのなら、かなり事態は好転する。
彼女に頼り切るのは良くないけれど、斥候の存在は旅の危険性をぐっと下げる。さらに、単純に人数が増えれば、相手にできる魔物の幅も広がるだろう。
「悪くない落とし所だな」
少し思案した後、レベッカさんはぽつりと呟いた。
彼女の了承が得られるなら、あとはユーリに頷いてもらうだけだ。
「僕、王都の図書館に用があるんです。でも、今の実力じゃ、王都までの旅路に不安があって」
「そうだな。俺らくれえとまでは言わねえが、おめえさんたち二人だけじゃ、荷が重い」
「でも、それじゃ、王都に着いたらもう冒険者じゃなくなっちゃうんじゃないの?ボクを利用するだけっていうなら、乗れないよ」
「調べ物が目的なんだけど、そう簡単に見つかるとは思えないんです。だから、王都でもお金を稼ぐために、冒険者は続けるつもり」
言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、事実だ。
彼女を利用したいという気持ちは、全くないわけじゃない。でも、ユーリ師匠とレベッカさんの仲裁をしたいという気持ちの方が、強かった。
部外者が口を出すことじゃないかもしれないけれど、血のつながった家族がすれ違うのは──寂しい。
「私は許可しよう。ユレニアを強制的に従わせることは難しくないが、穏便に済ませられるなら、その方がいい」
「でも」
不服そうな顔のユーリに、最後の一押しをしたのは、ジム氏だった。
「なあ、ユーリよう。おめえさんは、冒険者なんだろ」
「うん」
「今の状況は、意に沿わねえだろう。俺も守ってやりてえが、姉貴の言うことは正しい。正しい限りは、親子の話に口を挟めねえのが、部外者なんだよ。……姉貴が怖いのもあるが」
「何か言ったか?」
ぶんぶん首を振った後、ジム氏は頭を掻いた。レベッカさん、怒ると相当怖いのだろう。
「おめえがもっと強かったら、望まぬ状況を跳ね返せる。だが、まだ姉貴には勝てたことねえだろ」
「…………」
「じゃあ、その状況の中で、一番『自由』な選択をしろ。理想を追い求め続けることは悪くねえが、そのせいで自由を失ってちゃあ、冒険者としては下の下だぜ」
自由。日本でも、さんざん言われてきたことだ。自由と身勝手は違う。自由意志とわがままも違う。
冒険者は自由を最も大切にしている。だけど、その自由には「戦えない人たちを魔物から守る」という責任が伴っていて、今のユーリにも同じように、冒険者として自由に振る舞うためには、将来のために母の言いつけを守るという責任があるのだ。
「頼む。俺たちの力になって欲しい」
「お願いします」
僕とフレディは、勢いよく頭を下げた。
ジム氏のパーティーメンバーを横取りしてしまう形のため、ユーリ師匠だけでなく、彼へのお願いでもある。
「わかった。学校はぜーんぜん、行きたくないけど。君たち二人のパーティーに入るのは、楽しそうだし?乗ったよ、その提案」
「ありがとう、師匠!」
「これで百人力だな」
フレディと拳を合わせ、笑い合う。すぐにでも出発、というわけにはいかないけれど、これは大きな前進だ。
「ジム氏、メンバーを横取りするみたいで、すみません」
「構わねえよ。元々、嫌々預かってたんだ」
「えー!叔父貴、そんな言い方なくない!?」
「うるせえ。おめえはちゃんと学校行け」
とりあえず王都に行くことは決まったことで、レベッカさんの表情が和らいだからだろうか。
ユーリはいつもの彼女を取り戻して、ジム氏とじゃれあっている。
「あー、でも、俺たちじゃ前者の……他の生徒に陰口叩かれるって方は、解決できないな。すまん」
そうだった。王都の冒険者からの腫れ物扱いは、僕とフレディがパーティーメンバーとして一緒にいたら、マシになることだろう。少なくとも、孤独ではなくなる。
でも、貴族ではない僕たちは、学校には入れない。ユーリ──ユレニアに嫌味を言う貴族令嬢、令息に対応することはできないのだ。
「向かい風に立ち向かうのも大事なことだ……と言いたいが、あまりお前を追い詰めて、また逃げられては敵わん。そちらは私が少しくらい力を貸してやろう」
「お母様?」
「ま、任せよ。要は他の奴らに舐められなければ良いのだろう?」
不敵に笑うレベッカさん。なにか企んでいるようにしか見えないが、任せるしかないだろう。ユーリの顔は引き攣っているけれど。
「そうだ、ジム。お前のパーティーもユレニアとの別れはしっかりやりたいだろう」
「まあな。王都に行っちまったら、そう簡単に会えなくなるし」
「じゃあ、私から依頼を出そう。王都までとは言えんが、領都までの護衛なら、最後の仕事としてはふさわしいだろう?」
「姉貴に護衛なんて必要ねえだろ……と言いたいところだが、受け取っとく。ありがとな」
「出発は一週間後で良いか?フレデリク、アイゼン」
「問題ありません」
新しい仲間、初めての護衛依頼。僕たちの王都への旅が、決まったのだった。
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