幕間 パーティーの夜に
煌びやかなシャンデリアの下で、わたくしは眼下のダンスホールを眺めます。
本日は愛するお姉様のお誕生日パーティーです。お姉様は沢山の貴族に囲まれ、愛想を振りまいてらっしゃいます。
お兄様方も派閥の貴族と談笑中で、ひな壇の上に座っているのは、お父様とわたくしの二人きりです。
本日、お姉様は十八歳の誕生日を迎えられました。
美しい金髪に負けないくらい、華やかなワインレッドのドレスが、本日の主役であることを朗々と語っています。
かねてより婚約されていた、公爵令息とのご結婚も明日に控えていらっしゃいますし、遠目にも幸せそうなお姉様を見ていると、わたくしまで幸せな気持ちになって参りますね。
王家と公爵家の結びつきがより強くなることは、ドラコ王国にとって素晴らしいことです。お父様の表情は見えませんが、きっとお喜びのはずでしょう。
三人のお兄様方は、現在水面下で跡目争いをしていらっしゃいます。
わたくしとしては、愛するお兄様が傷つけ合うことも、国力の低下に繋がりかねない争いも好きませんが、わたくしの意見がお父様に届くはずもなく、跡目争いは黙認されております。
お
わたくしたちきょうだいは、全員が別の妃から産まれました。
きっと、誰か一人でも同腹のきょうだいがいれば、跡目争いはそれだけで決まっていたでしょう。
お
ついには、わたくしの通い始めた貴族学園でも争いの種が見られるようになってしまい、最近頭を悩ませています。
ともあれ、本日はお姉様の晴れ舞台なのですから、お兄様方にも日頃の争いを忘れ、しっかりと祝っていただきたいものです。
「サーシア王女。今晩は一段と美しくていらっしゃいますな」
「こんばんは、お祖父様。勿体無いお言葉ですわ」
誰も寄り付かないわたくしの席に、豊かな髭を蓄えた老紳士──お祖父様がいらっしゃいました。
お祖父様は、わたくしのお母様のお父様で、前王陛下の王弟、お父様の叔父であらせられます。
「陛下も、ご健勝そうでなによりでございます」
「叔父上こそな」
わたくしの隣に座るお父様に一言挨拶をしてから、お祖父様はわたくしに笑いかけてくださります。
「王女のお誕生日も、もうあと三月に迫って参りましたな。美しいドレスを見繕わせますから、楽しみにしておいてくだされ」
「まあ。ありがとうございます、お祖父様」
けれど、わたくしは知っています。お祖父様の笑みの端に、少しの悲しみと、苦悩が滲んでらっしゃることに。
「けれど、遠慮させていただきますわ。せっかく着飾っても、誰もいらっしゃらないパーティーでは、寂しいだけですもの」
「サーシア王女……」
わたくしの微笑みは、きっと、うまく作れているはずです。
何度も何度も、鏡を見て練習しましたもの。
唯一愛することができない、自分の髪と瞳を見ながら、何度も。
わたくしはこの、ドラコ王国を愛しております。
わたくしを産んでくださったお母様を、わたくしを育ててくれた乳母や侍女を、わたくしを王族として認めてくれる民を、わたくしを殺さずにおいてくださる、国王陛下を。
深く深く、愛しております。
けれど、雲よりなお白いこの髪と、不吉にも左右で色の異なる、緑と黒の瞳のせいで、わたくしは貴族たちに腫物のように扱われ、お兄様やお姉様、お父様からはほとんど「いないもの」として扱われているのです。
きっと、お祖父様が前王の王弟でいらっしゃらなければ、わたくしもお母様も、あらぬ罪によって命を奪われていたことでしょう。
なぜなら、ドラコ王家たるゴルテンライムの血族は、みな豪奢な金髪と、翡翠の瞳をしているのですから。
「そのようなことをおっしゃられますな。爺が、必ずや華やかなパーティーにしてみせまする故」
「嬉しいですわ」
それでも、わたくしは笑顔を、心からの微笑みを、浮かべ続けます。
この国を、愛しているのですから。
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