第4話
「SFの世界でよくあるやつだよ、脳の機械化は君の手足の能力向上の比じゃないぞ」
階段を下りながら江賀栖博士は興奮気味に説明している。
「先生、私はまだ反対です」
天水さんが博士の説明を遮り声を上げる。
「天水君何故だね、もはや技術的な問題は何もないぞ。今こそその時期である」
「技術的な問題ではありません。もっと人道的な問題です」
ご機嫌だった江賀栖博士の顔がみるみると曇っていく。
「何を人権屋のようなことを言うんだ。君は技術者だろ」
生身の部分をすべて失う。
そうなった場合、何をもって私と言えるのだろうか。
「先生の技術は革新的です、時代を数十年先取りしています。しかし進み過ぎなのです。もっと我々が成熟してからでないと」
「もうよい、天水君。決めるの君じゃない、そこの超人第一号だよ」
「博士、脳を機械化した場合僕はこの体をフルに使いこなせるのですか?」
「その程度じゃないぞ。記憶力、演算能力の大幅向上。さらに細かい動作もより精密になる。今の君でもスポーツで大成するのは苦労するだろうが、脳を機械化した暁には画家でも音楽家でも食っていけるだろうよ」
しかし今の脳を取り出し機械を埋め込むとなるとどうやって自分の思考や性格など移行させるのだろうか。
「君は顔に出やすい男だな。いいかい? 思考や性格は外部からの刺激に対する反応はルーティン化できる。ざっくり言えばAを受ければBという反応。Cを受ければDという反応といったように。記憶は暗号化した後、機械で処理する。もっとも君の場合記憶はほとんど無いようだがね」
理屈的に可能ということだけがわかった。
ここにきて脳を機械にするということに今まで以上に抵抗を覚える。
「それが普通の反応ですよ、決して無理することはありません」
天水さんは俯いてる僕の顔を覗きこみ説得する。
ここまで来た、もう十分だろ。
いや、ここまで来たのに素晴らしい力を半端で終わらせてしまうのか。
脳だぞ? ここに今の僕のすべてが詰まってるではないか。
そのすべてを綺麗さっぱり移せるとしたら?
もはや理屈の問題ではない、感情がどうかなのだ。
さて、その感情は果たして否定的な結論を出しているのかな?
「博士。お願いします。脳を機械化してください」
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