お茶会にて

 とある休日。エリーゼはライネスをお茶会に招待していた。場所は王都のとある屋敷。もちろん自分の家ではない。身分とかと同じように、いくつか確保している仕事用に使う場所の一つだ。その屋敷の中庭にテーブルと椅子を用意し、テーブルを挟んで彼と向き合うように座っている。


「今日は来てくれてありがとうございます」


 形式として、言っておく。


「なに、こちらこそお招きいただき感謝する」


 彼もそれに応える。


「それにしても、このような大きな屋敷だとは……」


 彼が驚くのは無理も無いだろう。貴族の別宅としてはかなり大きなものであり、普通ならそうそう見ることもないだろうから。


「こんなに大きくても、手に余りますから……」


「ここにはメリル一人で住んでいるのか?」


 おっと。ついに、君から名前呼びになったぞ。これは信頼されるようになったか、あるいはただの金勘定でかな。


「いえ……。私と姉、そして執事のセバスです」


 お茶を一口飲み、テーブルへとカップを戻すと、そばに控えていた黒いタキシードを着た老年の男性がお茶を注いでくれる。


「そうなのか? その割に姉の姿は見かけないが……」


「今日は外に出かけていますから。あ、噂をすると……」


 入り口を見れば、よそ行きの服装に身を包んだ女性が屋敷に入ってくるのが見えた。その女性はこちらが見ていることに気づくと軽く会釈をして、そのまま屋敷内に入っていった。


「美しい人だね。あの人がメリルのお姉さんか」


「ええ、自慢の姉です」


「それにしても、姉妹にしてはあまり似ていないようだね」


「ええ、よく言われます」


 そりゃあ、当たり前でしょ。自分は変装もしてるし、そもそもあれとは赤の他人だし。


 当然だが、老年の男性もあの女性も、断じてエリーゼの執事や姉などではない。ただの協力者だ。――ただのと言う以上には親密な関係ではあるが。


 まぁ、あの人の場合今は執事じゃないの方が正しそうだけど……。


 内心では色々考えつつも、ライネスとの他愛のない話は続いていく。その中で、少し彼をつついてみることにした。


「そういえば、ライネスさんには婚約者がいるんですか?」


「……どこでその話を?」


「他の方が話しているのを耳にしました」


 当然嘘だけど。


「その通り、俺には婚約者がいる。チェルシー・ハイランドと言う」


「ええ、その名は知っています。とても綺麗な方で、ライネスさんに劣らず優秀と。巷ではお似合いのカップルと言われているんだとか」


 そう言うと、少し彼の表情が歪んだように見えた。


「ははは、そこまで言ってもらえてるとは。嬉しい限りではあるが、言われているほどではないな」


「いえいえ、ご謙遜を」


「いや、本当にそこまでではない。特に君のほうがチェルシーよりも優秀じゃないかな」


「ふふっ、おだてるのが上手いですね」


 楽しく冗談を言い合っているように見えるが、彼の目は笑っていないようだ。


 確定ね。わかりやすっ!


 彼からすれば、自分より下だと見ているチェルシーと同格に思われるのが腹立たしいのだろう。せめて顔には出さないようにすればいいのにと、他人ながら思わなくもない。


 そんな楽しい――彼女にとってだが――時間が過ぎ、お茶会もお開きの時間となってきた。


「そろそろ日も沈みかけてきましたね。こんな楽しい時間も終わりですか……」


 少し寂しそうな表情をする。


「そうだな……。その、もしよければ今度は俺に誘わせてくれないか?」


「ライネスさんが?」


「ああ。誘われたままでは悪いからな。俺も君を招待させてくれ」


「ええ、ぜひお願いしたいです」


 表情に喜色を浮かべて答える。


「わかった。では、また今度こちらから誘わせてもらおう」


 彼は席を立ち、屋敷の門へと向かう。エリーゼも見送るため、後を追った。


「今日は楽しかった。ありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございます」


 お互いに笑みを浮かべる。


「ふっ、それでは」


 彼は背を向けて、屋敷から離れていった。


「彼の信用は勝ち取れたようですね」


「みたいですね」


 後ろに控えていた老年男性の言葉に、エリーゼは答える。


「それじゃあ、次のやつ行きますか」


 上手くいってることを確信しつつも、エリーゼに手を抜くという言葉はなかった。

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