第19話 決着
疲れ果てた元軍人と壮健な王。ある意味力量が拮抗し互いに何度も拳を喰らった。
だが決着の時は必ず訪れる。
「──ブハァ!」
「グフッ……!」
私の右ストレートがジョージの顎を直撃。しかし倒れ際に放たれた彼の左膝が、拳を振り抜いてバランスを崩した私のみぞおちに深く刺さった。
私たちは同時にその場に倒れ、動けなくなる。
「……はぁ……はぁ……。エドガー……、これは引き分けだな……」
「……認めざるを得ませんね……」
「陛下!」
「エドガーさん!」
周りで事の行方を見守っていた者たちが駆け寄ってくる。
「……なぁエドガー……。本当はなんで国を出て行ったんだ……?」
「……少し疲れたんだ……。……面倒事をお前に押し付けて自分だけ逃げ出したこと、謝るよ……。申し訳ありません、王よ……」
「それならいいんだ……。俺は生まれながらにこの道を歩む運命だったからな……。だがお前は雇われの身。嫌なら辞めてもいい……」
彼のその言葉が、後悔で凍り固まった私の心を優しく溶かす。
「……でも、それならなんで面倒を嫌うお前がその子の世話をしているんだ……?」
「……この子は私たちが不幸に陥れた。私たちが戦争で潰した国の貴族の娘だ……」
「……そうか」
「罪を償うことこそすれど、これ以上彼女のような人を生み出してはいけない……。だからマーシアから兵を引いてくれ……」
「……分かった」
私たちは肩を並べ空を見上げながら語り合った。
「……メアリーさん。この人が貴女の国を攻めたアルバート王国の国王で、私はその手伝いをした軍師です。……貴女には私たちを裁く権利がある」
「そんな裁くなんて……」
「これ以上戦争が大きくなったら困るので、彼は見逃して欲しいところですが……。でも私はもうどうなっても構いません。メアリーさん、剣の使い方は、私が教えましたね?」
「……エドガーお前」
私が短剣をメアリーに押し付けたその時、彼女は私に馬乗りになり胸ぐらを掴んできた。
「──やめてくださいエドガーさん! ……エドガーさん、私本当はエドガーさんのこと知ってました。私こう見えても一応貴族の元令嬢なんですよ? 敵国の有名人ぐらい知ってますよ」
「……そう……でしたか……」
「それも全部含めて、私はエドガーさんのことが大好きです。死にかけていた所を助けてくれて、生きる術を教えてくれて、一生感謝してもし尽くせません」
「……メアリーさん……」
「そっちの王様は……、エドガーさんを傷つけたので許したくありませんが、エドガーさんが許すなら私も許します」
「……ありがとうございます」
私の感謝の言葉を聞くと、彼女は私を抱き起こした。そして肩を組んで立ち上がる。
「帰りましょうエドガーさん。私たちの家に」
「……そう、ですね……」
気づけばグレイも意識を取り戻し座ってこちらを見ていた。
そうだ。戦いが終わればまた平和な暮らしが待っている。
家は壊れ、畑も踏み荒らされたがまた作り直せばいい。いつからだってやり直せばいい。
「待てエドガー!」
「え……?」
たった今帰ろう思ったその時、ジョージに強く呼び止められた。
「……狡い。狡いぞメアリーとやら!」
「わ、私がですか……?」
「エドガーと似たような境遇を持ち、共に支え合い、これからもずっと一緒に居られるなど、狡すぎるだろ!」
「やめなさいジョージ」
ジョージは駄々をこね始めた。こうなると面倒臭いのはよく知っている。
「没落貴族の令嬢と元国のナンバー2。一生添い遂げるにはお似合いだな」
「そそそそそ、添い遂げるだなんてそんな!」
「そうですよジョージ私はそんな下心を持ってメアリーに接していません」
「今お前がどう思っているかは関係ない。俺の目にはそう映る。いずれ気持ちが変わるかもしれない」
「メアリーさん、気にしてはいけません。大人気ない戯言です。こんな大勢の部下の前でみっともない……」
ジョージはドスンドスン地面を叩く。まるで子どものように。
「エドガー! やっぱりお前戻って来い!」
「ああもうジョージ! 私は戻りません。さっきは辞めていいって言ったじゃないですか!」
「駄目だと言ったら駄目だ! 俺の国に戻れ! じゃなきゃ兵は引かないぞ!」
「面倒臭いな本当に!」
もうテコでも動かないつもりだろう。兵士に引き起こされてもその手を払い除け地面にあぐらをかいて鎮座している。
「国に戻ってやればいいだろ!」
「何をですか!」
「お前の考えていることは分かる! その子に対する罪滅ぼしのつもりだろ!? 俺の分まで!」
「……だったらなんだ」
「せめて俺にも手伝わせろよ! 金は俺が出す。だからお前は俺の国で孤児院をやるんだ。俺たちの戦いで生まれてしまった戦争孤児やその子のような子を助けるためのな」
「……断ると言ったら……?」
「お前は断れない。これは王様命令だ」
「……はぁ、本当に貴方って人は…………」
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