第24話 事件起きたけど、南出雲は既に飽きている
「ちょっと、メメ。何を言っているの?」
「私、推理ものが大好きって前から話してたじゃん。ここに来たのだって、集中して本を読むためだし。」
は?誰だよ。
悠が人の名前を憶えている筈もないが、海老沢メメは女二人組の一人だ。
鯉沼久美子の目当ては狐座恭介。彼女は推理小説好きの女だった。
「鷹城先生。これって事件って感じですよね?凶器から指紋が出てこないのは、犯人が拭きとったからだ…って、言ってみてください‼」
「それは凶器の話でしょう?ドアノブなら、従業員が拭いた可能性もあるわ。」
「そうなんです。でも、部屋の鍵をオーナーさんが持っていて、鍵が掛かっているなら、オーナーさんが最後に触ってますよね?」
「オーナーが几帳面な性格かもしれないでしょう?」
「という、ツッコみがあった場合。そうですね。あのオーナーさんが丁寧に拭くとは思えないし。それに確か、あの大男が触って。その後は……」
悠は後ろ手に縛られながら、目を剥いていた。
自分で誘導したことではあるが、まさか話をしたこともない女が、ここに来て活躍をするとは。
「なんだって、いいです。早く、部屋の中を確認してください‼準君が中にいるとしても、裕次郎様が中にいらっしゃるとしても、返事がないのはおかしいじゃないですか‼」
「おい‼お前、どっからそんなものを…」
疑心暗鬼に陥ってしまった猿田蓮は、どこからか消火器を見つけてきていた。
だって蓮が信じられるのは、この部屋の中にいる人物だけなのだ。
「──今、助けるからね‼」
そして、物の見事に消火器は両開きの扉の真ん中にぶち当たって、閂部分が歪んだ扉がゆっくりと開いた。
扉部分が壊れただけで自動で開く、ってことはビー玉を置いたら転がっていく?
なんて、悠は一瞬だけ考えた自分を恥じた。
「準…君…?準君⁉い、嫌だ。嫌だよ。準君‼死んじゃ嫌だよぉぉぉぉ‼」
どうやら彼は殺されかけた後、暫く生きていたのだ。
助けを求める為か、自力で逃げ出す為か。それとも…
そこで息絶えてしまったから、扉が勝手に開いたように見えた。
◇
「あー。やっぱりこうなるのか…」
「どう考えてもナンデモさんが悪いです」
「えー。なんでー」
「だって。私の話を聞いてくれないからですよぉ」
「聞いたそばから全部口にするって言ったろう?」
「それは……、そうですけど」
悠と陽菜は悠の部屋に戻ってきている。
円形に作られた塔の二階、客室部分は1階へ通じる階段があり、そこから直ぐに外に逃げ出せる。
だけど、逃げるわけにはいかない。どうにか蓮を説得しなければならない。
あの時は話を聞く島もなかった。とにかく間が悪かった。
「この嘘つき‼噓つき噓つき噓つき‼どうして準君が…。準君はお前たちを信じていたのに‼」
「蓮君…だっけ。さっき、君はあの二人が殺し屋って言ってたけど、話を聞かせてくれる?」
「さっき、二人で話してた。自分たちは
「だから、それは勘違いだって‼この人、思った先から喋っちゃう人で…」
犬山準一は血を流して死んでいた。
蓮が冷静になれるわけがない。
そこから、訳の分からない展開が始まった。
「姐さん、どうします?」
「見張りをつけて部屋に閉じ込めておきましょう。って、アナタ。さっきから何をしているの?」
「探偵さんの推理の見学をしてます。だって、こんな機会滅多にないじゃないですか。あ、でもでも。探偵さんは事件に巻き込まれるものですよね?」
「そんなわけないでしょう?殺人現場に偶然巻き込まれるなんて、滅多にないことよ。」
「でも、鷹城先生はここにいらっしゃいます‼」
「私の場合は鹿西裕次郎に雇われていたから…、いちいちメモらなくていいから」
実は推理小説オタクだった女がいた。
本当は、誰も星空が好きではなかったのではないかと、疑ってしまう。
そしてメメがここで推理小説好きだからこその、好返球を投げた。
「やっぱりフーダニットの前に、ハウダニットですよね!犯人はどのようにして犬山準一を殺したのでしょうか。んー、でもそれはクライマックスだから、先に聞き込みかなぁ。ここで全員のアリバイを聞いてみましょうか‼」
「アリ…バイ…?」
流石は推理小説。文字のみで如何に犯行を想像させるか。
彼女が熱く語ることで、目の前の死が次第に現実から離れて行った。
「ちょっと、お嬢ちゃん?姐さんは忙しいっていうか…」
「あのねぇ。実際はもっと愚直に考えるものよ。アガサクリスティばりに全員の前で犯人当てなんてしないんだから。勿論、アリバイはフーダニットに繋がる重要な要素だけど。全員の前で聞くと、口裏を合わせられるでしょ?」
「口裏…あれ…?アリバイ、口裏合わせ?僕は…」
大切な人の死が、文字列に変わっていく。
ほんの少し離れてみれば分かることなのだ。
それが蓮の大切な彼が残してくれた約束だから。
「蓮‼ひとまず逃げるぞ。」
「勘違いさせてゴメンね、蓮ちゃん。私の手につかまって‼」
「え…、え…?僕は…」
だから、蓮は手を伸ばす。
──そして結局
「あの…。ゴメンなさい。僕、あの時何も考えられなくて…。でも、準君が殺されたのは現実で…」
気まずいながらも、猿田蓮も同じ部屋にいた。
「蓮は助ける義理なかったけどな」
「え…。はい。すみません…」
「また、余計なことを。ナンデモさんが教えてくれたことじゃないですか。その殺人が納得できるものか、確かめるべきって」
「当たり前だろ。俺たちの仕事は復讐の手伝いだ。悪をのさばらせる為じゃない」
「でも、私は今回ミスってばかりで。実はそこにまだ辿り着けていなくて…」
蓮はベッドで横にならせている。
陽菜がシーツを変えてくれたから、多分問題ない。
あとは五万円分の仕事を最後まで果たすだけだった。
「まぁ、気にするな。今回はあまりにもイレギュラー。いや、殺人にイレギュラーも何もないか。まともな人間はどんなに殺したくても、行動には移せない。まともじゃなくさせる何かがあるか、まともじゃないかのどちらかだけど。」
「ですから、私はまだ…」
「あ、あの。今は独り言とお喋り中でしょうか?」
「独り言が混じっているけど、会話もしているよ?」
勇気をもって、この二人の会話に参加する。
しなければならなかった。
だって。
「あの‼お願いします。今度は僕から依頼させてください。だって…」
蓮は大切な人を奪われたのだ。
そして、彼らは復讐を手伝ってくれると言う。
だから、このどうしようもないぐちゃぐちゃの気持ちを全部……
「え?普通に嫌だけど。」
「わー‼独り言の方がいきなり出ちゃった。」
「いや。独り言じゃないし。俺はな……」
ここで蓮は驚くべき、悠の一言を聞く。
「今が二泊目だから、明日で三日目の朝だろ。俺はな、もう飽きてんの。ここまで頑張って、目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んで、静かに生きていたのに…」
「口は全然、噤んでないですけど、ね」
「そういうのはいいから。とにかく、今日はここで寝る。俺は床でいいから、陽菜もベッドで眠っとけ」
「はーい。それじゃ、ベッドの横。いいですか?」
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