第6話 閉じ込められたらしい
俺自身、まさか自己紹介で一時間も使うとは思わなかった。
その原因を作ったのは俺の悪癖だろうけれど。
「つまり洞察系推理探偵、助手系探偵、科学捜査探偵、霊媒師探偵、サイコメトラー探偵と勘が鋭い系探偵の俺。そして殺人事件を熟せる探偵さんと独り言探偵の八人かぁ。ナルちゃんが一番っ個性が弱い気がするねぇ。」
「ウチも本当はちゃんとそういうのあるんで!ちゃんと個性は強いですから。それよりなんで八人なん?それに、その人が殺人犯っていうのはどういうこと?」
「並べると助手系って何ってなるな。っていうか、個性要らないから!殺人事件を熟せる探偵さんで、全然凄いから!」
「あ、有難うでいいのかな。でも、殺人犯だから嬉しくないし。それより何があったのか教えてよ。」
だが、この悪癖の原因がストレスというのは分かった。
そして、この状況は俺にとって宜しくない。
「……だからいち早く、シヤさん殺しが俺でないことと証明せねば。」
「え?シヤさんが殺された……の?」
俺の悪癖登場、そしていち早く反応したのは黒髪の女だった。
サイコメトラーとかいう力を使う、と噂されているらしい彼女。
そして赤毛の女。
「嘘!ウチ、昨日お風呂一緒したのに!シヤさんは今どこ⁉」
「あー、ガイシャなら僕が色んな方向から写真に収めたよ。今はキッチンの奥の部屋の冷凍庫の中。」
「それにどういうわけだか、電話が繋がらねぇんだわ。」
「私達が居るにも拘わらずです。この男が昨晩から今朝の間に初野貝シヤを撲殺。そして死亡推定時刻を偽る為、冷凍庫に保管。全く。酷い男です。」
「こいつ、喋り方が全然違う。もっと乱暴だったろ。」
「さて。何のことだか。楓君。お三人を現場に案内しましょうか。」
堂札の喋り方が変わったのは、俺のようにストレスを感じているからか、それとも綺麗な女性に囲まれて緊張しているのか。
ただの格好つけなのか。
そんなことを考えながら、俺も再び現場へ戻っていった。
そして辿り着いた先で俺が思ったことは。
「なんだ。こんな簡単なことにも気付けなかったのか」
という言葉。うっかり口にしてしまったけれども。
「気付けなかった?それは我々に対する挑戦か?」
全員が俺を睨め付ける。それはそう、彼らは探偵らしき存在だ。
ただ、俺は考え事を優先した。
「どうしてあんな無意味なことを……」
この時の俺は本当に無意味な迷宮に迷い込んでいた。
犯人の意図を素人目線で推理しようとしてしまったのだ。
「あの……、そのバット。僕に触らせてもらえる?」
「お!これはまさか。あの有名な奴か?悠、お前もしっかり見とけ!あれを見られるぞ!」
「あれ……って?」
ふと目線を戻した先に居たのは。
「きゃーあ。この男!厭らしい目をあたしにも向けて来たのよ‼それでそのバットであたしの頭を」
白眼のお嬢様だった。
「あー、違う。そっちじゃなくて、あっち!」
霊媒師探偵のことではなかった。
菅の手で強引に顔を右に向けられる。その先で、ボブカットの女がバットを持ったまま瞑目していた。
そして、何度かうんうんと頷いている。こっちの方が霊媒師っぽいが。
「そっか。これは邦夫さんのバットだ。」
「そうなんだよ。僕の分析と同じだね。こいつは旦那さんの形見で彼女を殴り殺したんだよ。どう?そこまで見えた?見えてないなら、今すぐ一人称の僕を変えてもらおうか?」
「そこは重要じゃねぇだろ!」
いや、ちょっと前から思っていたけど、こいつら。
「あ、うん。それじゃあ僕、一人称変えなきゃ……」
「素直かよ!永島さん。ぜんっぜん変える必要ないからね?男が使う僕と、女の子が使う僕は全然違うから!……っていうか、それじゃ殺人の瞬間は見えなかったってこと?」
「僕のままでいいということですか、助かります。あの……。見えるも何も。この木製バットで陥没するほどの殴打をしたんですよね。それは……流石にありえないかと……。」
「ちょ、見えなかったんなら一人称変えなよ‼今すぐ!僕は僕だけだから!っていうか、遺体の陥没とそのバットの大きさが一致したんだって!」
こいつら、探偵と言っているけど、やっぱり
「バカ……なの?」
あ、言ってしまった。
「何を馬鹿なことを言っている。盗人猛々しいとは君の事を言うのだな。」
「まぁまぁ、蓮君。話を聞こうじゃないか。えーっとどっちの?」
「俺じゃなくて、永島さんの話だよ。」
「あ……、僕の話でいいの。えっと、その……、どうしよっかな……」
「話進まないから‼アレでしょ⁉コーティングも剥げてるその木製バットで殴ったら、簡単には取れないくらい血液とかそういうのが付いてしまうってことでしょ⁉それにここは殺人現場じゃない!だって床も冷蔵庫も何もかもが綺麗すぎる!花草だって他には何もないって言ったじゃん‼」
あ、また言ってしまった。
「そうなの!アタシもそう思ってたの!冷蔵庫も床も綺麗にしているけど、シヤさんだけで完璧な掃除は無理だったんだわ。壁紙や冷蔵庫には拭かれた跡がない。埃だって残っているから、拭いたのは床だけね。ここが犯行現場とは考えられないわ!」
は?何、この助手系探偵。
俺の奴を全部持ってったんだが?
「そういうことです。私の推理でもここが犯行現場ではないと結論付いていました。なのにこの花草が——」
「僕は事実を言っただけだし!っていうか、それくらい分かってたし!いつ気付くのかなって呆れてたくらいだし!」
いや、待て。お前ら。
「もう、そうならそうって言ってくれたらいいのに!それじゃ、凶器は別にあるってことね!」
こいつらの推理がかなりいい加減なのはよく分かった。
だから、落ち着いて俺は彼らに提案した。
「あのさ。無線とかないの?それか狼煙とかそういうのでモールス信号的なのを送る……とか?その方が俺も助かるんだけど……」
こいつらは子供だ。
かと言って、それなりの小道具を持っているし、多分モールス信号だって知っている。
だが、俺は見落としていた。
あの時、アイツはなんて言ったか。
「予想がついていたって言ってたろ。花草。こういう時の為の科学なんじゃないのか?」
俺は当たり前のことを言った筈だった。
だが、ある者は俺に半眼を向け、またある者は肩を跳ねあがらせた。
そして、彼は俺の肩を叩いた。
「いやぁ、気持ちは分かるんだけどさ。無線機は見当たらないし、それにここは海側で、島のある方に回って狼煙を焚くのはかなり厳しい。」
それはただの言い訳だ。出来ないと言っていない。
「それに俺たちへの依頼は遺産の調査だ。そして依頼人はそっちを望んでる。……こんなこと言いたかないけど、ここで引き下がったら俺達は何も得られないんだよ。」
だが、ここで俺は目を剥き、気付かされた。
俺は単に癒されにここに来たが、こいつらは違う。
「そんなに金が欲しいのか。シヤさんにはご家族が……」
「そのシヤさんのお子さんたちからの依頼なのよ。それにアタシたちだって必死なの!」
「話によれば200億円相当の宝石よ。殺人事件なのだからそれなりの警察が来てしまうわ。先に見つけられてしまったらどうするおつもり?貴方も探偵なんでしょう?」
そしてもう一度、肩を叩かれる。
「独り言探偵なら分かんだろ?既に手を汚しちまった誰かが居る。黙って連絡しようとしたら、……どうなるか分かるよな?孤島での事件、やりようによっちゃその犯人に全部押し付けて好きに出来ちまうってことだ。」
その言葉は脅し以外の何でもなかった。
つまり誰が犯人かは関係なく、殺人が起きた段階で彼らは連絡することが出来ない。
それどころか連絡しようとする人間を殺すかもしれない。
そして、この後の麗神エイルの言葉に俺は愕然としたんだ。
「総額いくらかは分からないのよ。そして出所の分からない宝石。しかも宝石一つだけとは考えられない。貴方だって、その一つか二つ持って帰りたいって思うわよね?っていうか、在り処を教えてくれなかったから殺したんでしょう?」
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