第5話 全員集合の食卓

「まだまだ怪しい点はあるんだぞ。チェックインしてからこっち、やけにガイシャと話をしていた。夫が本当に死んだのかを確認しているようにも思えた。」

「だよねー。どう考えてもアイツが犯人なんだけど、もっと証拠が必要よね。」


 あの後、キッチンから出ると先の四人がテーブルに座っていた。

 昨晩、俺とシヤさんが一緒に夕飯を食べたテーブル。

 ここはとても大きな部屋で恐らく大富豪がダイニングルームとして作ったのではないかと思われる。

 だから、使い道は大きく変わっていない。

 ここは元々旅館ではなく


「別荘として建てられたんだ。だからこんな奇妙な造りになっている。」

「相変わらず、君は突然話し出すね。今はとりあえず自由にさせているだけってこと、忘れないでよね。僕はちゃんと君の指紋つきのバットを押さえているんだから。」


 因みに俺は猿轡はされていないものの、両手は縛られている。

 確かに第一発見者だし、凶器と思われるバットからは俺の指紋が、あのポンポンポンってやるなんかによって検出されている。

 そして、俺にはまだよく分からないが、


「動機は隠された遺産探しだっけ?だからこいつらがここにいると……」

「お?独り言探偵が何か言い始めたぞ!」


 そういうんじゃないだけど。

 ただ、菅剛は俺の半眼を全く気にせずに、こう続けた。

 

「しかも、噂では絵画とか彫像とかそういう芸術的価値のあるものではなく、紙幣なんていう時代で変わるものでもなく、……不変的な形の資産という話だからねぇ。」


 その言葉に全員が何かしらの部位を動かした。

 堂札は貧乏ゆすりが激しくなったし、和藤は単に両肩を浮かせ、花草はあからさまに顔を顰めた。

 そして、その話を教えてくれた菅はニヤニヤと笑っている。

 ただ、それでも分からない。


「だって、初野貝さんはこの別荘付きの島を安く手に入れたって話していたぞ。それに初野貝さんもそこまでお金を持っている訳じゃないって言ってた。……自分が死んだらここはまた無人島になるだろうって」


 やばい。泣きそうになる。


「なんだ、今から再確認か?独り言探偵兼殺人犯は。お前だって知っているんだろうが、お前の動機をはっきりさせる為に敢えて言ってやろう。」


 なのに堂札は白い眼を俺に向けている。

 こいつ、本当に洞察力系の探偵なのだろうか。

 どう見ても今の俺は初耳顔で、しかも悲嘆に暮れているだろうに。


「当時はここはただの悪趣味な別荘だと思われてたんだ。富豪が無人島を買う理由なんてそんなもんだろう。そして、その男は二階の一番東側の部屋で腹上死した。不便な孤島、更には事故物件だ。当時は資産を隠しているという話も無かったからな。無論、初野貝が嘘をついていた可能性もあるが……」

「シヤさんは嘘なんかついてない!……って、今なんて?二階の一番東の部屋って俺が泊ってる部屋じゃん‼あ、あれだよね?腹上死っていうか、寿命だよね!お爺ちゃんが頑張ったんだよね⁉一番最高の死を迎えたってことだよね⁉」

「さぁな。ただ死んだ金福場士かねふくじょうじは当時50代。多くの女を連れ込んでいたという話だ。その女共が共謀して殺した可能性だって無くはない。当時のマスコミは女共に同情的だったし、金福家もその方が保険金を受け取れるから警察を丸め込んだという噂もある。そして、今回のお前はその部屋に泊まっている。」


 なんてことを言うんだ、こいつは‼

 俺が泊っている部屋に女の怨念、いや女は死んでいないんだけど、怨恨殺人が起きていた可能性‼そういえば、シヤさん。部屋がどうとかって言ってたもんな。


「俺の部屋がその金腹って奴のお気に入りの部屋だった……」

「そうだ。最近になって、その時連れ込まれていた女からの手紙が来た。あの宝石を所有する権利は自分にある、とな。そして宝石の隠し場所として、一番可能性がある部屋にお前は泊まっていることになるな。」

「代わって‼誰か俺の部屋と代わって‼」

「嫌よ。殺人犯の部屋なんて、泊まりたくないわ。それに既に調べ尽くしたってことでしょ?そして他に隠せそうな場所はないかと、シヤさんに迫ったんじゃないの?」


 皆、同様に頷いている。

 あの頼りになるお兄さんも肩を竦めて嫌そうな顔をしている。


 ——そして、ここで


「あ、あのぉぉ。ウチたち、なんで呼ばれたのかなぁ?誰か縛られてるから、のっぴきならない状況なのは分かるけどぉ。」


 赤毛風の茶髪の女と蒼と呼びたい黒髪の女、更には見たことある紫っぽい色の髪の女が食卓部屋の扉を開いた。

 どうして見たことあるかというと、船の上で俺の独り言にドン引きしていた女だからだが。


「ん?僕は呼んでないけど?」

「俺が呼んだんだよぉ。だって招かざる客が一人混ざってるんだぜ?」


 どこまでも楽しそうな褐色イケメン。

 肩を持ってくれるのは有難いが、死人が出ているのに楽しそうなのは……


「——少しどころじゃなく、ヤバいな。」

「この男、船の上でわたくしに破廉恥なことを言った男です‼また、そんな破廉恥な目をこの私に向けて‼」


 ピッタリ目が合ったところで、俺の悪癖が発動してしまった。

 ヤバいってどうして色んな意味で使えるんだろう。

 殺人現場で笑顔の奴がヤバいってつもりが……


「——エロくてヤバいっていう意味で」


 使えてしまう。日本語ってマジで複雑だ。

 っていうか、どうした、みんな!

 そんな凍り付く視線を全員で向けなくても……、おや?

 俺もしかして、またやってしまった?どこからどこまで俺の心の声だ?


「大丈夫ですよ、お嬢様方。この獣は私が縄で縛っていますからね。」


 この男。

 突然、カッコよさそうな喋り方に変えやがった。

 まぁ、今はどうでもいい。今俺がやるべきことは呪われた部屋を変えることだ。

 部屋数は確か足りていた。一階は全部で五部屋、二階は全部で六部屋。

 余裕で足りている。だから俺は余った別の——


「部屋に行かせてくれればいいんだ」

「は?行かせるわけないじゃん。あんた、殺人だけでは飽き足りず、女の子を襲うつもりなの?」

「ひっ!獣‼」

「え?殺人犯⁉」

「嘘……、本当にそんなことになるなんて……」


 三人とも、今朝の事件は知らないという様子だった。

 一人は全然違う理由で俺を睨んでいるのだろうけれど。

 そして結局、俺はシーツで猿轡をさせられた。


「ちょっと皆落ち着こうよ。ね?ほらほら、俺達自己紹介もまだじゃん。まずは、目下、殺人容疑を掛けられてる彼。南出雲悠、彼はあの有名な独り言探偵だ。そして俺は菅剛、俺は——」


 彼の口から菅、堂札、和藤、花草の順に先と同様の紹介がされた。

 その直後、洞察系推理探偵、助手系探偵、科学捜査探偵という特徴も各々の口から発現された。

 因みに菅は自分を勘が鋭い系探偵と名乗っていた。

 

「ウチは栗見くりみナル。確かに探偵だけど、どういう特徴かはあんまり言いたくない。ウチの得意分野じゃないかもしれないし……」

「ナルちゃん。これは正式な国際探偵組合の挨拶だよ?」

「んーんんんーん?」

「そうだ。我々の決め事みたいなものだ。」

「ちょ、菅君に堂札君?こいつが何喋ったか聞き取れたの?……ウチ、そういう勘とか洞察とか苦手なん。でも、殺人も扱ってるよ。それだけは言っとく。」


 俺のそんなのあるの?という言葉を二人は簡単に読み取った。

 いや、俺の顔を見たら誰でも分かったと思うけれども!

 赤毛っぽい茶色い髪の女、Tシャツにジーンズという軽装の女。


わたくし麗神れいがみエイル、同じく探偵よ。そんなことより私にも聞き取れませんでしたので、獣の口を開放してくださいます?私、殺人犯には負けませんので。」


 紫の髪、厚化粧、そして何故かドレスの女。

 

「そうかい?良かったな、悠。お嬢様の許可が下りたぞ。んで、どういう探偵なのか教えてくれるかい?」

「私、実は霊が見えるんです!」

「言うと思ったわ‼はーい、こいつ。探偵じゃないでーす。」

「あら、さっそくですの?でも、負けませんわ。見えると言っても夢の中ですわ。私はトランス状態に入ることで、事件の全容を掴みますの。皆さまからは、霊媒師探偵と呼ばれておりますが。」


 馬鹿なの?

 こいつが八人目の宿泊客、いや患者さんじゃない?


「え!アタシ、聞いたことあるかも!数々の難事件を白目を剥きながら解決した女探偵。その名も白目剥きお嬢様……」

「怖っ‼そこは眠るとかにしとけよ!白目剥いてって怖‼っていうか、なんで和藤さんはそんなに詳しいんだよ‼それも怖っ‼」

「あの……、僕の紹介しても宜しいですか?」

「マジ?僕っ娘……だと⁉」

「はいはい。言うと思った言うと思った。僕だって僕っ子なんだから、僕の方が困るんだけど。まぁ、いいや。続けて。」


 そして蒼いと言いたくなるほどの黒い髪、少しダボ着いた学生服の女。


「は、はい……。僕は永島佳子ながしまかこです。探偵っていうか、モノを掴むと過去が見えるっていうか……。だから、一応サイコメトラー探偵って呼ばれて……」


 超能力者かよ‼というツッコミを今回はどうにか抑えた。

 ただ。


「アタシ、聞いたことある‼正確には超能力じゃなくて、物の配置を見て、射角や死角、扱った者の特徴を無意識に見極めているんじゃないかって。そうすることで洞察系探偵の上位互換の推理が出来るんだって‼」

「お前は言い方に気を付けろよ‼隣の下位互換に睨まれてるぞ‼」


 と、結局ツッコんでしまったのだが。

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