- 第 20 話 - 終わりを知らせるカナリア

 世界が暗転して、元の崩壊している世界に戻ってきた。


「戻ってきてしまったのね」

 黄色い髪の少女は息をついた。


 メルカは自分の本を漂わせ、地図をぱらぱらと開き、声を漏らした。


「すごい。鉱山の内部まで全部、更新されている」


 消えた地図で途切れていたすべての道は、町へと繋がっていた。細かく線が描き込まれ建物の場所がわかった。

 黒く塗りつぶされているところには穴があるのだろうか。


 公園の前の通りに立っていた。

 先ほどまでふたりいた幽霊のカナリアは、黄色い髪色の少女だけになっていた。


 小さく地面が揺れ、割れた窓が、一斉にカタカタと鳴った。


「そんなの作っても全部無駄よ。すべて消えちゃうんだから」カナリアは言った。

「カナリアちゃん、大丈夫よ、新しく地図を作れば、きっと火も消えて、元の町のように戻れるわ」

「そうだぞ、自由が戻ってくるんだ」


「自由、大丈夫、ねぇ」


 カナリアは噛みしめるように言った。「わたしにカゴの外の自由を教えてくれた男はすぐに死んでしまったわ。伝える自由を教えてくれた、あの男の子と同じ雰囲気がする人はまだ大丈夫みたいだから、特別に見逃してあげていたけど、それも時間の問題ね」


 地面がカタカタと揺れて、黒い煙が勢いよく噴き出した。

 すべて解放されたはずの地図で、その煙が噴き出したと思われる一角が薄れていった。


「そろそろ限界かしら。この町はもう一度、崩壊するわ。地下の鉱山が崩れてきているから。火事で元々ボロボロだけどね、崩れた土砂でどんどん押し出させて、地盤が大きく歪んできているの。崩れるときは一瞬かもね」


「せっかく地図を解放できたのに」とメェダスが言う。

「カナリアちゃんの言っていることは正しいと思うわ、残念ながら」とメルカが言った。


「わたしの地図は世界を作り変えているわけではないから。今の状態を地図に反映しているだけ。地形が変わってしまったら上書きされてまた消えてしまう。何の問題も解決していないの。ただの時間稼ぎだから」


 ふたたび地面が音を立てて揺れた。先ほどの揺れより大きかった。


「わたし、行くわね。鉱山に避難させてあげないといけない馬鹿がいるから。こっちの方角に大きな建物があるでしょ?」


 エリナのいる<モル>があった方角をカナリアは指さしていた。


「町に来た連中をその<だいじょうぶ>な方向に飛ばしていたの。まあ、ムカつく奴は真逆に飛ばしたりもしたけどね。あんたたちは自分たちで逃げてくれると助かるんだけど」


「わたしたちは大丈夫。カナリアちゃんは早く行ってあげて」

「死んでも幽霊になれるわけじゃないんだからね、死んじゃったらダメよ」


 少女の幽霊は、風を切って鉱山の方向へ羽ばたいていった。

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