- 第 17 話 - 自由な空と
本のページがめくられるように世界が暗転した後、場面は切り替わっていた。
今度は屋根の上にメェダスは立っていた。その背中にカナリアはとまり、メルカはふわふわと宙に浮かんでいる。
「この記憶は火事が起こる前の町かしら」とメルカは言った。
風が吹いていた。見上げると星空が一面に広がっている。
メルカの視線をたどった先には鉱山の入り口があった。人は集まっておらず、煙もまだ出ていない。
「そうね。わたしの記憶が正しければ、これはわたしが火事を起こす前の世界。わたしが死んで、初めて手に入れた自由な空」
「死んでも記憶は残るものなのか?」とメェダスは聞いた。
「まだ死んだことないから分かんない」とメルカは言った。「それでもあるんじゃないかな、こうして残っているんだし」
「屋根の先を見て。あそこに身体から抜け出したわたしがいるわ」とカナリアは言った。
「おんなじ色だと見分けがつかないなぁ」とメェダスが言った。
「カナリアちゃん、なりたい自分を想像して」
「なりたい自分?」
「好きな色とか」
「この世界は風とか塊になれるんだ。空も飛べるし」とメェダスが言うと、
「そこ、余計なこと教えない」とメルカに注意された。
「そうねぇ」とカナリアは少し考えてから、自分の身体を赤色に変えた。「ちやほやされている赤いカナリアを見たことがあるのよね。一度なってみたかったの」
「あそこにいる黄色いほうは何をしてるんだ?」とメェダスがたずねる。
「見てるんじゃないかな、新しい世界を。死んだあと少ししてわたしは目を覚ました。誰かに話しかけても気づいてもらえないし、身体が壁をすり抜けることもすぐに分かった。
それで外に飛び出して、同じような仲間を探していたわ。でもいなかった。しばらくはどこかで休みながら、ずっと空を眺めていたの。するとね、ほら」
静まり返った夜の町をひとつの小さな炎がゆれていた。その炎は少しずつ、ゆっくりと町を進んでいく。
「アリーよ」とカナリアは言った。
白いローブが地面を引きずらないようにして、ゆっくりと歩いていくその様子は、まるで町の幽霊のようであった。
屋根の先端で休んでいた、黄色いほうのカナリアは飛び去った。
「わたしたちも行きましょう。離れすぎると記憶の壁にぶつかるわ」とメルカが先導して飛んでいく。
「何してんの、早く」
赤いカナリアはメェダスの背中を小突く。
「今、風について考えてんの」と言ってから、ものすごい勢いで飛び立った。
「あんた、飛ぶの下手ねえ」
と、カナリア言った。それでもカナリアはメェダスの背中にしがみついていた。
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