- 第 15 話 - ふたたび町へと歩み出す

 民宿<モル>を出発するときに、朝と夜で違う顔を持つエリナから熱い見送りを受けた。ぶんぶんと音が聞こえそうなほど手を振っていた。


「あれは化粧よ」とメルカから補足された。

「どっちが本当のエリナなんだ」

「どっちもね」とメルカは言った。


 朝と夜でもあまり顔の変わらないメルカと、メェダスは道なりに公園を目指していた。地図に自分たちの歩いた、一本の道が少しずつ解放されていく。


 公園に到着するまでの道のりでも、段差や深い穴で、遠回りを余儀なくされたが、やがて昨日の公園にたどり着いた。


「あの幽霊から地図をもらったらいいんだよな?」とメェダスはたずねる。


「この地域をさまよっている幽霊ならこのあたりの新しい地図を持っているはずよ。もしかしたら、鉱山内の地図も解放できるかもしれない」


 ふわふわと地図を漂わせて、メルカはまたしても猫でも探すかのように幽霊に呼びかけていた。


「カナリアちゃん、どこ? ちょっと手伝ってくれないかな」

「幽霊の正体は結局カナリアだったのか?」


 昨日目撃した幽霊は、小さな女の子の姿をしていた。


「それは過去を見てみれば分かるはず」


 さびれたブランコがぽつんとあった。鎖1本でかろうじてぶら下がっていたブランコはそこにはなく、支柱だけがむなしくそこに残されていた。空き地には花火の燃え残りが落ちていた。


「……チ、……チ」と寂しそうな声が聞こえてくる。


 声のしたほうには少女の幽霊が立っていた。先ほど見渡したときには姿はなかったはずである。


「だいじょうぶよ、カナリアちゃん」

 とメルカは言って、本を手元に手繰り寄せた。「<きみはもう自由>よ。この世界のカゴに縛られることはないわ」

「こんなところにいなくたっていい。<きみはもう自由>なんだ。好きに生きたらいい」と、メェダスもつづけた。


「……チ?」と少女は首をかしげた。

「そうわたしたちは友達」とメルカは近づいて膝をついた。そして手を差し伸べた。


 少女の幽霊もゆっくりと手をあげて、ふたりは握手をした。

「あなたの地図を貸してもらえるかしら」

 メルカはやさしく語りかけて、持っていた地図を逆さに向けた。


「欠けた記憶の投影――エメンタール」


 地図から風が巻き起こった。木々と雑草が、ざあざあとゆれていた。


 メェダスは、今度はしっかりと地面に立ち爪を立てていた。


 地図の書かれた本は、メルカとメェダス、そして少女の幽霊を飲み込んで、そして消えた。

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