- 第 13 話 - ハイテンションなヤングは

「それでメルメルはやっぱり幽霊を探しに行くの?」


 エリナは、会うたびに距離感が近くなる特性を持っているらしい。


「幽霊?」


 まるで初めて聞いた風にメルカはとぼける。

「だってさ、ここに泊まりにお客さんって、ほとんどが荒廃した町をわざわざ観に来るローテンションな廃墟マニアか、心霊スポット巡りのハイテンションなヤングだからさ。利用してもらっておいて言うのはなんだけど」


 利用客のテーブルのキャベツの盛り合わせから、一切れのキャベツを摘まみ取り、そのまま流れるようにメェダスの口に運んでいたエリナにも、この店の人間である自覚が一応はあることに感心した。


「どちらかといえば、そうね」とメルカは言った。「わたしたちはハイテンションなヤングかも」

「でしょ」

 と、エリナは笑った。「わたしもこれから滅びゆく町並みにあんまり興味ないんだよね。新しいもののほうが好き。さんざん近くから見ているってのもあるけど。

 幽霊がいるなら一度くらいはせっかくなら会ってみたいかな。わたしが生まれるよりも前からボロボロだったから、まだ一度も入ったことがなくてさ」


「入ってもまったくいいことなんてないよ」

 メルカはやんわりと釘を刺す。


「だよね。わたしもそう思う」とエリナは同調し、笑い声をあげた。「友達に肝試しに何回か誘われたことがあるけど、ぜんぶ断っちゃった。危ないってのもあるけど、幽霊だって静かに暮らしたいでしょ」


 メルカはときおり相づちを打って、耳を傾けている。

 エリナは、メェダスの背中をやさしく撫でながら、話をつづけた。


「あの町ってわたしのパパがむかし住んでいた町らしいし、壊れていても、何かしらの思い出が詰まっていると思うんだよね。

 こう見えてわたしもハイテンションなヤングだからさ、その場のノリで馬鹿やっちゃうときもあるし、それで町のものを壊しちゃったらイヤだなって」


 公園に記憶が残っているくらいだから、規模が小さくなってもきっとあるだろう。


 それがどんな記憶なのかは、住んでいた住人とメルカの地図に聞いてみないと分からない。


「わたしもそう思う」とメルカは力を込めて言った。

「そういうと思った」とエリナは笑い声をあげた。「このカピバラくん、名前あんの?」

「メェダスよ」

「じゃあメェメェだね。なんかヤギみたいじゃん」とエリナは楽しそうに言った。

「おれはもともとはヤギだからな」

 メェダスは口をモゴモゴと動かした。


「またなんか言ってる、今度は何て言ってんのかなぁ?」とメルカに視線を送った。

「そろそろサツマイモが食べたいって」

「へぇ」


 今度はてんぷらを抜いたサツマイモのてんぷらをひとつ持ち上げて、メェダスの口元に差し出した。


 メェダスはそれを口の中で転がして堪能してから、よく噛みしめてみたが、なんだか物足りない感じがした。


 繊維が足りない。


 キャベツがもっと食べたいと、頭のなかで自然と浮かんでくる。これが禁断症状かもしれないと思った。食べ終わるころには、また次のサツマイモが送られてくる。


「週末はお店もぼちぼち忙しいし、一緒には行けないけどさ」とエリナが言った。「パパから聞いた神隠しの攻略法、特別に教えてあげよっか」


 メェダスは、口からぽろりとサツマイモを落として、もう一度、口に入れた。

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