‐ 第 4 話 - モルニア南公園

 ブランコがあるだけの小さな公園だった。


 遊具のない場所には雑草が伸びていた。複数の子どもが走り回って遊ぶには少し狭いだろうか。


 遊具の塗装は剥がれ落ちている。ブランコのひとつは、鎖の1本が途中でちぎれていて、地面に束なってとぐろを巻いている。もうひとつは撤去されたのか、空っぽの空間があるだけで、その残骸は周囲には見当たらなかった。


「それなりに安全な道を選んで進んできたから安心して。本当は鉱山にたどり着くか、幽霊とお友達になりたかったんだけど、まあ仕方ない」


「神隠しさせてくる友達なんて、おれはイヤだね」


 先に公園に足を踏み入れていたメルカは、それまで浮かせてあった本を珍しく手に持っていた。うながされてメェダスも渋々と公園の敷地内に入った。


「この本の地図が消えてしまうのは、その場所の情報が長いあいだ更新されていないことを読み取っているから。ここには古い地図しかないの。簡単に言えば、見捨てられて絶滅してしまった土地だから。

 この本は、様々な理由で更新されていない地域の地図を、新しい地図に更新することができる」


 メルカは持っていた本を反転させた。地図の上下が逆さになっている。


「その代わり、しっかりつかまっていてね」

 と、メルカは言って、ゆっくりと目を閉じた。


「つかまるって? 何に?」


 メルカからの返事がなく戸惑うメェダスは、とりあえず地面から生えていた雑草を両手でそれぞれつかんだ。


 ゆっくりと息を吐いたあと、メルカは本から手を離した。


「欠けた記憶の投影――エメンタール」


 真っ逆さまに落ちた本は、地面に触れることなく、ちゃぽんと、水面に沈んでいくように、そのまま地面に入っていった。


 どこからか風が巻き起こり、雑草は荒波のように揺れ、ブランコの鎖がじゃらじゃらと音を立てた。


 ぐにゃりと世界がゆがんでいく。


 しばらくすると風は収まっていた。

 公園はふたたび静寂に包まれていた。そこに立っているものは、誰もいなくなっていた。

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