- 第 3 話 - 消えた町のうわさ

「怪奇現象? 物が勝手に動いたりするやつのことか?」


 町に入る前に受けた説明を思い出しながら、メェダスはたずねた。


「その物が動く現象はポルターガイストと一部で呼ばれている現象でね、それとは別にもっと深刻なことが起きるようになったと記録が残っているの。<モルニアの神隠し>。町から人が忽然と消えるようになったと」


「消えてしまったから、この町には人がいないのか」とメェダスは妙に納得したが、メルカにすぐに否定された。


「消えた人はすぐに帰ってきたわ。この世界から完全に消えてしまったわけではなくて、町の外に飛ばされていただけみたい。それでも当時の人々は気味が悪くなったでしょうね。それで消火活動は取りやめになり、住んでいた人々は他の町に移り住むことにした。神隠しの現象は最近でもここへ踏み入れた人によって報告がされている」


 少し離れたところから砂ぼこりが舞いあがり、地面を小さく揺らした。

 暗がりから空き缶が転がり出てきた。


「こんなところ、早く出ていこうぜ」

 ざわりとした風がメェダスの背中を撫でていた。


「何を言っているのよ」とメルカは言った。「わたしたちはこの町の消えた地図を埋めに来たのよ。ほら見て、まだまだ全然よ」


 メルカが浮かせている本に書かれた地図は自動で更新される。地図から消えた町<モルニア>に立ち入ってからこれまで自分たちが通ってきた道、正確にはメルカの持つ本が通ってきた道が、ぽっかりと消えた空白の地図に1本の道を作っていた。


 たったひと筋だった。すべてを埋めるのはまだまだ時間がかかりそうだ。


「本当は特に危険な場所も調べておきたいんだけど」とメルカはため息をつく。「どこから噴き出して来るのかまったく予想ができないわね。鉱山に行っても危ないだけだし」


「この町は誰も住んでない場所なんだろ? 地図なんか作っても意味ないじゃないか」

 平然と本を眺めながら、一歩ずつ確かな足取りで地図を埋めていくメルカに、メェダスは言った。


「今はそうかもしれない。町には誰も住んでいないし、火はどこかで今も燃えている。だけど地図があると未来は変わるかもしれないじゃない? この町の火を消すことはできないけど、後からやって来た誰かがのために、確かな道を、目的地を作っておかないといけない」


「未来より今だろ? 建物が倒れてきて下敷きになったらお終いだ。それに神隠しもあるんだろ?」

 夕焼け色に染まったメェダスの体毛がふるふると震えた。


「そうね」


 メルカはひと呼吸おいて「それじゃあ、あそこにしましょうか」と少し先にある広場を指さした。

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