第84話 エンジンブロー×2

椿ラインの高校生レースから1週間が経った頃。

リナは33位という決勝進出にあと少しのところで届かず残念な結果で終わったことの悔しさもあり、今日の土曜日は芦ノ湖スカイラインと箱根スカイラインを走り込んでいた。

ちなみになぜ34位だった順位が33位になったのかというと、高校生レース参加者の決勝進出者にルール違反をした者が失格となり順位が繰り上げとなった。

失格となった選手が違反した内容というのは、651cc超えの大型バイク相当の排気量エンジンに載せ換えて参戦していたことが発覚したからだ。

大型バイクの免許は18歳以上にならないと取得することができない為、18歳未満も参加する高校生レースに大型バイクを使用するのは不公平と言うことで禁止とされている。

失格者が出たことで棚ぼたでフランは30位となり決勝進出を決めた。


しかし、フランは決勝レース中にZX25Rのエンジンが突然ブローしてしまい運良くストレートを走ってる時だったのでブローによるシフトロックにも冷静に対応して転倒することなくコース上に停車することができた為、大怪我することだけは回避できた。

ブローの原因は、無理に高回転域を回してオーバーレブをしてしまい舞華による凄まじいチューニングも相まってエンジンの寿命はかなり短命だったのかもしれない。

舞華自身も「使い捨て前提でチューンした」と言っていた。

現にフランは決勝レースではタイムアタックの予選の時とは違い、自分よりも上の排気量のライバル達を5台抜いて25位まで順位を上げていたが、250ccで決勝を戦っていたのはフランだけでどうあがいてもエンジンにムチを打つしかない状況ではあったし、なんといっても経験値の差は大きかった。

闇雲にエンジンパワーを振り絞っても勝てるほどレースは甘くない、今回のレースはリナとフランにとって良い経験となっただろう。


リナは自分のテクニックをさらに向上させる為に以前にも増して走り込みをしていた。

確実に大会の時より腕は上がっている…そう思って箱根スカイラインを攻めている時だった。

バンっ!!という凄まじい破裂音のようなものがエンジンから聞こえた瞬間にリアタイヤが急にロックされてコーナーに差し掛かって車体を倒し込もうとしたときだったので、リナはそのままバイクもろとも激しく転倒した。

幸いにも周りにも車はいなく、大会に出たときに着ていたレーシングスーツのおかげで少し身体を痛めた程度で大きな怪我をすることはなかった。


「……そんな…バリオスが…」


リナは無事だったがバリオスは転倒した影響でミラーや操作レバー等が破損してエンジンからオイルが漏れ出して白煙を上げていた。

フランのZX25Rに続いてリナのバリオスまでエンジンブローしてしまった…


リナはエンジンブローしたバリオスの車体を起こすと後続車が来たときのことを考えて安全な場所へとバリオスを押して移動させた。

リナは急いで東雲先生に連絡すると軽トラで救済に来てもらえることになった。

東雲先生が来るまでの間、峠道でじっと待っているのもなんだか落ち着かなかったので舞華に電話をかけた。

あっさり電話に出た舞華に状況を説明すると、ビデオ通話に切り替えてバリオスのエンジン部分を見せると舞華はエンジンの損傷具合で「おそらく中でコンロッドが破損してそれがエンジンを突き破った…」と長年の経験でそう告げた。

リナのバリオスも椿ラインのレースでかなり酷使していたのは確かで、フランのZX25R同様に使い捨てのつもりで仕上げた1台らしい。

リナは「直せないんですか?」と震えた声で舞華に聞くがエンジンの載せ換えしかないとのことで高校生のリナにはもう1台バイクが買えるくらいの額になると舞華に言われた。

レッカーに関しては東雲先生が来てくれると舞華に伝えると「2人のバイクはアタシが考えておくよ」とだけ言って舞華は電話を切った。


電話を切ってから数十分経った頃に東雲先生が軽トラに乗ってやってきた。

体育座りして俯いてるリナに東雲先生は黙って近づきこれだけ言った。


「…良かった、西園寺さんが無事で」


東雲先生にとってバイク部の4人は大事な教え子であり弟子でもあるので、バイクの事故による死だけは絶対にあってはならないと思っていた。

リナは説教されると思っていたが東雲先生は何も言わずに「さぁ、バリオスを軽トラに載せましょ」と言うのでリナも立ち上がって2人は黙々と軽トラの荷台にバリオスを載せる作業をした。


2人はバリオスを荷台にしっかり固定すると既に舞華と連絡を取っていた東雲先生は、このまま東京の舞華の自転車屋まで運んでくれるとのこと。

リナは助手席の窓から外を眺めながら東雲先生に「怒らないんですか?」と聞くと、少し間をあけたあとに東雲先生が言った。


「…怒る理由がないでしょう。バイクは公道を走る原動機の乗り物で1番危険なのは私は西園寺さんより知ってるわ。それに貴女はしっかり装備をして走るという私の教えをしっかり守っててエンジンブローによる自爆なんだから仕方ないわ、西園寺さんが無事なことが何より私は嬉しい」


東雲先生はそれ以上何も言うことはなかった。


リナとフランは、ほぼ同時に愛車を失った。






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