第83話 あと一歩…

4月下旬の快晴の箱根。

この日は高校生ライダーによる椿ラインのレースが行われていた。

箱根近郊の静岡、山梨、神奈川に加えて今年は東京の高校生が集まり公道を貸し切っての2輪レースだ。

今回の参加者は120名と去年より参加者が多い。

予選はタイムアタック形式で1名ずつ行われ、30位までに入った選手が明日の決勝レースに出られる。

初出場のリナとフランは120名いる中で7番目と8番目に予選を行なうことになった。

タイムアタック形式の場合、戦歴を残したことのないルーキーが若い数字のゼッケンとなり目安となるタイムが出ていない状況からスタートするため不利な状況ともいえるだろう。

ちなみにリナがゼッケン7でフランがゼッケン8で参戦する形となる。


リナ達の出番が近づいてきた頃、聞き覚えのある女性の声に呼ばれてそちらを振り向くと去年に東名高速の中井PAで出会ったひとつ上の女子高生ライダーの飯村蘭だった。

彼女は以前に会った時はSUZUKIのカタナ250に乗っていたが、今回のレースではカタナ400で参戦するらしく去年の大会で30位以内に入った決勝進出者なのでリナ達より遥かに上のゼッケン94番を付けていた。

蘭と大会について世間話程度で軽く会話をしたあとに「お互い頑張りましょう」とだけ言って蘭は自分の学校のチームメイトの方へ歩いていった。


午前8時からスタートした予選のタイムアタックは、夕方までかかってようやく終了した。

予選の結果は、リナが34位でフランが31位とあと一歩及ばず2人は決勝レース進出を逃した。

フランに至っては、30位の選手と1秒差もなくコンマ数秒の差で惜しくも予選落ちとなってしまった。

2人の走りは決して悪くはなかった、むしろ2人が走り切ったあとは初出場ルーキーとしてはかなりの好タイムで実況の人も興奮していた。


しかし、現実はそう甘くない…

例え伝説の走り屋の東雲先生と舞華から指導を受けているリナとフランであっても公道レース経験がないのはハンデが大きい。

2輪4輪問わずレースの世界では闇雲に攻めればいいってものでもないし、何よりタイヤマネージメントが重要になってくる。

リナ達のひとつ上の飯村蘭は予選で7位に食い込んで、去年よりも順位を上げて決勝進出を決めていた。

蘭の走りをモニターで観ていたリナ達は、無駄なのない走行ラインとマージンを確保しつつ余裕のある走りをしているのにも関わらず自分達より遥かに速いペースで走ってる姿に改めてレベルの違いを見せつけられた。

1位〜3位のトップ3の選手達は、もはやプロが高校生になりすまして走ってるのではないか?と思わされる程。

しかし、ギャラリーや実況者も「高校生と思えない」「将来が楽しみ」と騒いでいる中、欠伸をしながら退屈そうにトップ3の走りを観ていた舞華は「カメの追いかけっこ?(笑)」と小馬鹿にしていた。

流石に東雲先生は、立場上不適切な発言は控えていたがトップ3の走りを観ても何も刺さらなかったようだ。

現に東雲先生と舞華が昔叩き出した椿ラインのコースレコードは、今大会の参加者誰1人として塗り変えることはできなかった。


リナとフランは、改めてとんでもない化け物2人からバイクを教わったのだと思い知らされた。









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