第82話 伝説は健在
4月になったとはいえ夜はまだまだ冷えるので、バイクに乗る際はかなり防寒防風対策が必要になるが熟練ライダーの舞華は長年培ってきた経験と知識で対策しているので夜の高速を走ってもなんてことない。
舞華と孝太は首都高速3号渋谷線から首都高に上がると都心環状線に向かって縦一列になって法定速度で走っていた。
「コウちゃん!アタシがセッティングしたバリオスはどう?」
インカム越しに舞華の声が聞こえてきた。
それに対して孝太は「なんていうか…乗車姿勢がつれぇ…」とフロントフォークに直に取り付けられたセパレートハンドルとバックステップの姿勢が久々にバイクに乗った還暦間近の孝太にはキツかった。
せっかくだから娘が乗っているバイクに乗ってみなよという舞華の言葉通りに乗ったのが失敗だったかもしれないと内心思っていた頃に谷町ジャンクションからC1内回りに入った。
すると、突然舞華から恐ろしい言葉がインカムから飛んできた…
「ねぇ?コウちゃん?…ちょっとだけC1攻め込んでいい?」
「は!?マジかよ!?…俺、まだコイツに慣れてねーぞ!?それにお前についていける気がしないわ…」
「大丈夫だよぉ!アタシも本気では走らないからー、コウちゃんは自分のペースで走りなよー」
舞華はそう言うと5速から一気に3速までブリッピングシフトダウンをすると自分でセッティングしたフランのZX25Rの仕上がりを確認するためにC1を加速していく。
既に現役は退いているとはいえ走りは全く衰えておらずC1のコーナーを凄まじいペースで抜けていく姿を後ろから見ていた孝太は「白煙の舞華は衰え知らずか…」と呟いた頃にはインカムの接続が既に切れていて孝太の視界から舞華は消え去っていた。
白煙の舞華という異名の由来は舞華がバイクを覚え始めた頃から好んで乗っている2ストロークエンジン特有の排気ガスの煙を上げながら次々と箱根の走り屋ライダーを抜き去っていく姿から付けられたもので、現在では伝説となっている。
今回はフランのZX25Rのメンテ後の試走も兼ねて走っているので凄まじい煙は出ていないが…
そもそも4ストロークだから不必要に煙は出ないのだが。
おそらく舞華に公道で対抗できるライダーは、今は亡き佐倉奈々未を除いたらリナやフランのバイク部の顧問を務める「電光石火の萌歌」とかつて呼ばれていた東雲先生くらいだろう。
伝説の女3人が叩き出した箱根の椿ラインのコースレコードは奈々未を筆頭に萌歌と舞華がコンマ数秒違いというぶっちぎりのレコードを保持したままで、この3人のレコードを塗り変えた者は未だに現れていないという。
伝説と言うのはそうでないといけない。
本当に速い者は、例え何年経っても越えられない壁として君臨していなければ伝説とは呼べないのだ。
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