第78話 親族
部室に行ってみたいという心珠のお願いを聞いたリナとフランは、バイク部の部室として使っている教室に向かった。
部室に着くと電気が点いていたので誰かいるのか?と思ってリナ達は部室に入ると東雲先生がPCを使って仕事をしていた。
そして部室に入ってきたリナ達の方に顔を向けた東雲先生が突然「え!?心珠ちゃん!?」と叫びながら椅子から立ち上がった。
突然大きな声を出して立ち上がった先生を見てリナが「先生、この子のこと知ってるんですか?」と聞くと心珠も少し驚いた表情で東雲先生に言った。
「……萌歌さん?轟萌歌さんですよね?」
轟という姓は東雲先生の旧姓のことだ。
旧姓で呼ばれた東雲先生は足早に心珠に近づいてきて言った。
「どうして沼津の高校に!?地元から単身で引っ越してきたってこと!?それにしても久しぶりね、こんなに大きくなって」
「ご無沙汰しております。萌歌さんは全く変わらず可愛らしいですね。…そうです、単身で沼津の高校に来ました。まさか貴女がこの学校で教師をしてるとは予想外でしたが」
東雲先生と心珠が親しげそうに話してるのを見て、以前から知り合いだったというのはリナ達にもわかるが少し引っ掛かった。
単身で引っ越してきたということは静岡より遠方に住んでるということは想像つくが何故そんな遠方に住んでる人と東雲先生が知り合いなのか?
リナは東雲先生に聞いてみた。
「先生と心珠ちゃんってどういう関係なんですか?」
「……心珠ちゃんは、この子は西園寺さんの恩人でもある私の師匠の奈々未先生の姪っ子さんなのよ」
リナは新学期が始まって以来で1番の驚きだった。
幼少期に迷子を助けてくれた恩人の佐倉奈々未の姪が自分の通う学校へやってきたことに。
そして詳しく話を聞くと心珠は北海道出身で、奈々未の実妹でもある心珠の母は故郷の静岡を離れて仕事で北海道に単身で行っていた際に道民の父と知り合って結婚したらしい。
心珠の母も父もツーリングを楽しむ程度にまったりバイクに乗るらしいが、心珠だけは奈々未の血を濃く継いだようでどちらかというとレーサー思考で幼少期の頃に奈々未が乗るカタナの後ろに乗せてもらったり、元バイクレーサーだった母方の祖父(奈々未の父)のコネと指導で7歳からサーキットで50ccの2ストレプリカに乗って腕を磨くなど本格的に乗っていたようだ。
この話の流れでリナも幼少期に奈々未に助けてもらった恩人で憧れの存在ということを話すと、心珠が例の悲しい事故について語りだした。
「伯母さんが昔、私と同じくらいの歳の子を助けたということは聞いたことがあります。こうして西園寺先輩と出会えたのも運命的ですね。その後に伯母さんは仕事中の事故で亡くなりました…幼かった当時の私はただただ泣いてました」
部室内は重い空気が流れてしばらく沈黙が続いたあとに続けて心珠が言った。
「私は伯母さんが生前に走ったという箱根の峠を走ってみたくて遥々北の大地からやってきました。萌歌さんが…いえ、東雲先生が教員をやっているこの学校に通えば高校在学中に走れると思ったからです。私の判断は正解でした、こうして志を高く持った先輩方がいるバイク部に出会えたのですから。改めてよろしくお願いします」
心珠は深々と頭を下げた。
近々、箱根の峠を貸し切った高校生によるバイクレースが控えているので本格的なバイク経験者の心珠の入部が頼もしい。
心珠が入ったことで部として活動するためのメンバーはあと1人の入部を残すのみとなった。
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