第75話 転校

年が明けてから早くも1ヶ月が過ぎて2月になった頃にバイク部内で衝撃的なことが告げられた。


「部活がない日に急に部室に呼び出してすみません、私達姉弟は3月いっぱいでこの学校を去ることになりました…」


部長の聖奈から突然のカミングアウトにリナとフランは開いた口が塞がらずにぽかーんの状態になっているが、東雲先生だけは少し前に話を聞いていたようで悲しそうな表情でリナやフランを見ていた。

久保田姉弟が去る理由は、九州の宮崎出身の父親が急遽地元に戻ることになったことが理由だった。

久保田姉弟の父の実家は宮崎県の北部にある諸塚村というところで、子供の頃からど田舎すぎる地元が嫌だった久保田姉弟の父は長男でありながら実家を出て静岡の方に来たようだ。

なぜ、このタイミングで嫌だった実家に戻ることになったのかというと実家の跡を継ぐはずだった弟(久保田姉弟の叔父)が飲酒運転のダンプカーに突っ込まれて車が大破するほどの大事故に巻き込まれて亡くなってしまったことが理由だ。

今後のバイク部は4月からリナが部長、フランが副部長を引き継いで活動していくことになるが2人だけになってしまうので新たに入ってくる新入生をなんとか入部させないと部の存続も厳しくなってくる。

健人は涙を堪えながら悔しそうにこう言った。


「俺はお前らともっと一緒に部活がしたかった…バイクで一緒に走りたかったよ…免許制度が変わってこれからだと思ってたのに」


健人は堪えきれずに涙を流しながら言うと姉の聖奈がハンカチを手渡す。

健人が先ほど言った免許制度が変わったというのは、普通二輪免許の取得が今月から緩和されてMT免許が教習所で取得可能になったのだ。

EVが主流になったとはいえ、まだまだ中古車市場や海外の一部ではガソリン車が溢れるように残っておりMT車がメインの原動機のバイクはMT車の免許がないと本当の意味でバイクが楽しめない上に、何より日本での販売が困難になるので海外メーカーからしてもたまったものではない。

1990年代中頃まで自動二輪免許の中型限定(400cc以下)を解除するのに非常に難関な限定解除試験が行われていたことはバイク乗りなら聞いたことがあるだろう。

その時はハーレーダビッドソンなどの国外バイクメーカーからの外圧で非関税障壁!と騒がれたことで、免許取得の緩和措置がされたことにより大型二輪免許を教習所で取得できるようになった。

やがて時は流れて2030年代…

EV車が主流となり教習車が全てEV車となったことで事実上のAT限定免許が当たり前の時代となってしまったことで中古車市場に流れている原動機のMTバイクが乗れる若者が急激に減ってしまった。

しかし、バイク好きの若者や原動機バイクをメインに扱ってる国外メーカーから猛烈な苦情や圧による90年代の時と同様に国が緩和する方向を発表した。

国が発表した内容は普通二輪免許のMT免許を再び教習所で取得可能になったこと。

中型と大型のMT免許に関しては今まで通り免許センターにて一発試験のみだが、とりあえず普通二輪免許さえ教習所で取れるようになればMTバイクの基本は学べる。


健人はリナとフランに歩み寄ると右手をリナに差し出して、左手をフランに差し出した。

3人は変わった形で握手を交わすと健人がリナとフランに言った。


「俺は宮崎に行ってもバイクに乗るつもりだ!せっかく免許が改正された訳だしAT限定の解除をしてギア車に乗って腕を磨く!…そして、いつになるかわからないけれど…また一緒に走ろうぜ!俺達は離れてたってバイク部の仲間だろ?」


健人がそう言うと隣で聞いていた姉の聖奈も「ちょっと!アタシもいるんですけど!(笑)」と言いながら握手を交わしている健人達の手の上から自分の手を当てながら部長として最後に言った。


「また、この4人で走ろうね!あなた達はアタシの最高の宝物なんだから!」


この言葉にリナやフランも思わず涙を流した。


そして部員達のことを見ていた顧問の東雲先生の目にも…


別れというのは全てが最後を意味する訳では無い。


これから別々の場所で生活することになったとしても、4人の友情と絆は変わらない。


リナとフラン、聖奈と健人…


4人は必ず再会すると誓って部室を後にした。



いつの日か…

共に走る日まで…

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