第73話 牛若丸
準決勝をかけた大一番。
リナは部長に背中を叩いてもらって気合を注入した。
対戦相手の浜松の高校の大将は、今大会の出場者で最重量の121kgの大柄の女子高生力士だ。
リナの体重は60kgなので完全に倍の体重の力士と取り組むことになる。
対戦相手の女子高生力士の名前は「宮澤」と言うらしい。
身長164cmで体重121kgなので上背はリナの方があるが、いざ土俵に両者が上がると体格差が歴然だった。
周りの観客席からは「体格差ありすぎ…イジメだろ…」「もう勝負するまでもない(笑)」など浜松の高校の勝利が決まったような雰囲気になっていた。
しかし、対戦校の監督だけはリナと宮澤の体格差を見ても余裕の顔を見せずにじっくりとリナを観察しながら「……怖いな」とボソッと呟いた。
リナと宮澤が片手を構えると両者睨み合う感じでお互いを見た。
審判が「はっけよい!!」と合図した瞬間に宮澤は巨体ながらなかなかの瞬発力で猪突猛進のごとくリナに向かってきた。
誰もがリナが吹き飛ばされて終わる…そう思った時だった!
「なっ!?」
相手校の監督が思わず声を出して椅子から立ち上がった。
監督の目の先には向かってくる宮澤を華麗に飛び跳ねて交わすリナの姿だった。
これには観客席も大騒ぎになった。
真っ向からぶつかっても体重差で押し負けると判断したリナは「八艘飛び」という源義経が船から船へ跳び移り八艘も彼方へ逃げ去った伝説が由来の相撲では滅多に見られない技で見事に宮澤をかわして見せたのだ。
リナは八艘飛びでかわしつつ宮澤の頭と背中を土俵に叩きつけるように押すとバランスを崩した宮澤が体勢を立て直す前に土俵に着地したリナはすかさずに宮澤にぶつかっていき下手と上手をがっちりと取った。
宮澤は体格差を活かして力士として見たらひょろひょろのリナを持ち上げて投げ飛ばそうとするがリナは土俵から足が離れたら負けるとわかっていたので自分の力を振り絞ってしがみつく。
予想外過ぎる接戦に観客席からは「諦めるなー!」「最後までくらいつけー!」などリナに向けての声援が多くなっていた。
宮澤は下に入り込まれたリナのまわしを掴むと凄まじい力でリナを振り回した。
中堅を務めた部長が「流石に厳しいか…」と半ば諦めていたが、リナの目はまだ諦めていなかった。
幼少期から鍛え抜いてきた持ち前の筋力でどんなに振り回されてもリナは宮澤のまわしを掴んだまま絶対に離さなかった。
土俵際に追い込まれたリナは執念で宮澤の足に自分の両足を絡みつかせて粘りを見せつけた。
振り回して投げ飛ばそうとしても粘られてしまい無理と判断した宮澤は今度は自分の全体重をリナにかけてそのまま土俵に倒れ込ませようとしてきたが、リナにとってはこれはチャンスだった。
左手で下手を取っていた手を離したリナは宮澤の右足(リナから見て左)を抱え込むように掴むと持ち上げてバランスの崩しにかかった。
宮澤はリナを振りほどこうと掴まれた右足に気を取られた時だった。
リナは自分の右足を宮澤の左足の膝裏に外掛けしてテコの原理を利用した切り返しで一瞬にして宮澤の巨体が土俵に背中からドスン!と音と共に倒れ込んだ。
見事に技を決めたリナの大金星で観客席は拍手喝采で湧き上がった。
準決勝進出を決めたリナに部長が「見事な試合だった!ありがとう!」と初のベスト4入りを果たしてくれたリナにお礼の言葉を言った。
準々決勝が終わった直後に対戦校の監督がリナの元へやってきて「体格差で圧倒的不利な中、華麗に技を決めた西園寺さんは敵ながらお見事でした。私もいい勉強なりました、ありがとうございます」と言うとリナのことを絶賛していた。
その後、準決勝に進んだリナ達だったが中堅の部長以外が負けてしまった為、大将戦は行われずリナの出番がくることはなかった。
ちなみにリナは今大会で八艘飛びや体格差のある相手に技を決めて勝利するなどの功績を残したことで技能賞が送られた。
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